赤池完介さんはステンシルで風景や人物など様々なモチーフを描き出すアーティストだ。「アートと商業デザインの中間の立ち位置で仕事することで、多くの人に自分の作品を知ってもらいたい」という彼は、紙やキャンバス以外に作品を表現する場を広げている。音楽イベントやスポーツ大会のポスターやアートワークのほか、ここ数年は、セレクトショップの店頭でファッション商品にステンシルアートを施すイベントも積極的に行っている。
(柏木均之)
表情が異なる面白さ
赤池さんは美大を卒業後、本格的にステンシルアートを始めた。自分で撮った風景写真や好きなミュージシャン、ノートの端に書いた落書きなどをモチーフに、多い場合は10枚くらいの型紙をデザインナイフで切り抜き、スプレーとローラーで色を付けて描く。
10色以上を駆使して、夕暮れの海岸やガソリンスタンド、人物画などを作り出す。描線は使わず色を吹き付けるだけだが、型紙を緻密(ちみつ)に作り込み、細かなディテールを再現している。「同じモチーフでも使う色の違いやにじみ、ズレで1点ずつ表情が異なるのがステンシルの面白さ」ともいう。
当初は作品を展示会でのみ発表していたが、元々ポップアートやストリートグラフィティーが好きだったこともあり、しだいに商業分野で仕事をする機会が増えていった。これまでに車椅子バスケの世界大会のポスター製作や有料テレビのキャンペーンのアートワークも手掛けたこともある。
道具工夫し表現に幅
ファッションやカルチャーとの接点を持ったのは数年前からだ。当時、作品作りに行き詰まり、アートと無縁の輸出用貨物の梱包(こんぽう)作業の仕事に就いていた。そこで梱包商品にステンシルで番号を打つ作業を行い、自分が作品作りに使っていたスプレーではなく、作業用ローラーで色を付ける体験をした。
「道具を工夫すれば、紙以外の平面にも表現の幅が広がる」。そう気付いた頃、知人の仲介でユナイテッドアローズのイベントでステンシルワークを披露する機会を得た。最初は別注スニーカーの絵をノベルティーのトートバッグに吹き付けるイベント。次に六本木店で、客の購入商品に自分の作品を描いた。
このイベントでは「リモワ」のスーツケースやカシミヤのセーターなど高額な商品にステンシルを入れてほしいという客も現れ「良い意味で自分のそれまでの固定観念が吹っ飛んだ」という。その後、フリークスストアや別のアパレルブランドでもステンシルを披露するようになった。
今後は美術としての作品作りを継続する一方、様々な企業と組む仕事にも力を入れたいという。ファッション企業との協業にも前向きで「アートとして作る以外に、服やバッグなど日常使う商品に描くことで、いろんな人に自分のステンシルを知ってもらいたい」と話す。
■ステンシルとは
絵や文字を切り抜いた型紙(テンプレート)を素材に当て、その上から筆やローラー、スポンジなどで塗料をのせてプリントする方法。塗料を直接のせるため、紙や布など多くの物に印刷できるという特徴を持つ。