雪が舞う11月、ウェディング地区に位置するシアターUferstudioにて公演されていた舞台「AMA-Perlentaucherin」を観に行った。同作は、三重県で代々受け継がれてきた海女という伝統的な文化にスポットを当て、その歴史や苦悩を描いた物語。舞台を手掛けるのは、ベルリンを拠点に世界で活躍する演出家・振付家の前納依里子。
実は、彼女の作品は、昨年のちょうど同じ時期に認知症をテーマとした「HIRO’s LIED」が公演されていて観に行かせてもらい、とても感銘を受けていたため今作もとても楽しみにしていた。
今作の「AMA-Perlentaucherin」は、前納さんが2019年に初めて海女の村を訪れた時に浮かんだアイデアであり、パンデミックでフィジカルな発表ができない期間に360°のダンス映像を制作し、発表した作品の劇場版。エジンバラ、横浜、シドニーのパフォーマンスフェスティバルでオンライン上映された同作は時を経て、多くのシーンが追加された形で発表するに至ったという。
アクアラングのようなスキューバーダイビング用の器材を使わず、素で海に潜り、アワビなどの貝を取るのが海女の仕事であり、3000年もの間、三重県で代々受け継がれてきた女性たちの生き方だ。しかし、この貴重な伝統文化は昨今の気候変動や海洋汚染、過疎化という深刻な問題にぶち当たっている。そんな海女の世界を140名のオーディションから抜擢された5名の女性ダンサーが数少ない英語でのセリフとダイナミックなコンテンポラリーダンスで表現する。
まず驚いたのが、露出度が高く、光沢のあるシルバーのレオタードで激しいダンスを披露したことだ。友人たちと一番前で観ていたこともあり、女性目線であってもドキドキしたが、そのセクシーさとは裏腹に、お金を稼ぐため、生活のため、伝統文化を守るため、様々な葛藤とともに危険が伴う海へと潜っていく彼女たちの苦労とプライドが伝わってきた。
天井が高く、装飾のないミニマルなスタジオには、美術や映像によって幻想的な海中の世界観が映し出され、とても美しかった。さらに、タンジェリン・ドリームのThorsten Quaeschningが手掛けた舞台音楽がメランコリックな感情を増長させていくのも見事な演出だった。セリフも少なく、コンテンポラリーという抽象的な表現でありながら、どこか悲しげな表情で一心不乱に踊る姿は実際の海女を見たことのない私にも理解できるリアルさとインスピレーションを得ることができた。
前納さん自身もダンサーという経歴を持つ傍ら、演者への振付を指導し、舞台のプロデュース、演出、キャスティングなど全てを担っている。そのバイタリティーは一体どこから来るのだろうか?彼女の活動を追う度にパワーをもらっている。舞台の題材も社会問題や環境問題に特化したものが多いが、センシティブな部分にだけフォーカスするのではなく、独自の感性や解釈を盛り込んだ現代的なアプローチが彼女の作品の魅力なのだろう。次回作にも期待が高まるばかりだ。
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。