前回、日本の100%マスクと黙〇〇シリーズに慄き、それについての記事を書いた。思いの外反響があったことにも驚いたが、自分で考えて正しいと思う行動をしている人も多いことを知った。それ以前に多忙を極める東京の人たちはマスクを着用していることなど気にしてる暇もないのかもしれない。そんな日本もいよいよ3月13日からマスク着用義務はなくなり、“個人の判断に委ねる”とのこと。
1人で車に乗ってるのにマスク着用、家の中に1人でいるのにマスクしたままセルフィーといった奇妙な光景も見なくなるのだろうか。ちなみに、ベルリン州ではマスク撤廃に続き、すでに感染者の隔離義務も撤廃されている。これにより、医療機関を除いたほぼ全ての防疫措置がなくなったということになる。
マスクと奇妙なルールを除けば、東京は相変わらずエンターテイメントで溢れている。高層ビルから吹き荒れる風が冷たくても晴れているだけで気分は明るくなり、目に入ってくるもの全てが新鮮で街を歩いているだけでも楽しい。3年というブランクやコロナ禍による街の変化はツーリストと同じ目線で新鮮に映るのも確かだ。
反して、ベルリンの冬は晴れる日の方が少なく、無機質で無愛想なコンクリートビルとあいまってグレーの世界が広がる。もとから省エネモードの街灯は全く街を照らしてくれないため、夕方でも真夜中のような暗さになる。
これに耐えられず、冬季鬱になる人も多く、冬のバケーションや一時帰国する人も多い。今回の帰国で改めて太陽の大切さを思い知った。ベルリンより地元の方が気温が低く、雪も多く、家の中も寒いが晴れの日が多いのはそれだけで救われる。
東京に話を戻そう。アパレル業界が元気がないと聞いていたが、筆者にはそうは思えなかった。打ち合わせ前に友人がローンチしたブランドを見に向かった原宿は、“良いものを着ている”と一目で分かる若者で賑わい、インバウンドも戻っているように見えた。1ユーロ140円という円安ユーロ高の影響で全てがお得に見えてしまう危険な状況でもあったが、すでに大きなスーツケースには日本食と実家に置いてあった靴と洋服がスペースを埋めている。
飲食店に関しては、やはり長年愛着のある東横線の代官山〜祐天寺、そして、恵比寿辺りが居心地が良いと感じる。3年前にはなかった新しい飲食店が数え切れないほど増え、3年前に滞在したホテルは閉館、街の雰囲気も歩いている人も違って見えるけれど、それでもホッと出来るのはこの周辺なのだ。
便利ではあるけれど、個人的にはあまり好きではない複合施設に覆われた渋谷駅周辺は人混みだけですぐに疲れてしまう。もし、もう一度東京に住むことになったら、鬱陶しいとさえ感じてしまう街の喧騒にも馴染むことが出来るのだろうか?昔のように魅力を感じることが出来るのだろうか。
特別ベルリンにこだわっているわけではない。とは言え、ドイツの他都市に住む気は全くない。ヨーロッパ諸国で住みやすい場所があれば住んでみたいとは思う。“ラップトップ1つでどこでも出来る仕事”と思われているが、必ずしもそうではない。30代後半で移住し、自分のことなど誰も知らない中で、何度も恥をかきながら一から築いてきたローカルカルチャーとの繋がり、そこから派生するグローバルな繋がり。これがあるから東京よりエンタメが圧倒的に少ないベルリンでも楽しく生活が出来ているのだ。その背景には東京で培ったいろんな経験があることは決して忘れない。
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。