ベルリンのクロイツベルク区に位置する「フォイエルレ・コレクション(The Feuerie Collection)」(以下、フォイエルレ)の魅力についてはこれまで何度も記事にしてきたが、個人的にも大好きなミュージアムであり、創設者で収集家のデジレ・フォイエルレ氏の世界観には常に感銘を受けてきた。
同ミュージアムは、第二次世界大戦時代に使用されていたと言われる情報通信防空壕の跡地を世界的建築家ジョン・ポーソンが改築し、ミニマルで厳かな空気漂う空間が出来上がった。展示されているのは、7世紀から13世紀のクメール彫刻、紀元前200年から17世紀の中国皇帝家具、荒木経惟の写真、クリスティーナ・イグレシアスなどの作品で、古典美術と現代美術とが対比する他にはない展示方法が特徴的。
そんなフォイエルレでは、現在、新たな試みとして様々なイベントが開催されている。ベルリン・ファッションウィーク中には新鋭ブランドのランウェイショーが行われ、ゲストアーティストによる期間限定の企画展、さらには、東洋と西洋の交流と友好の支援や育成を目的としたパフォーマンスプログラムが発足され、3月1日よりベルリンを拠点に活躍する若手アジア人アーティストによるパフォーマンスイベントが開催されている。
足を運んだのは、琉球舞踊家の洌鎌利好、ハンマーダルシマー演奏者の近藤彩音、書道家の松崎清乃の3名によるコラボレーション。友人でもある利好さんの踊りは以前からいろんなイベントで観させてもらっていたが、フォイエルレ独自のライティングの中で踊る姿は、観ている私たち観客にも緊張感が漂うほど妖艶で美しく、顔の表情や手の動き一つ一つに引き込まれる圧巻のパフォーマンスだった。
ハンマーダルシマーの音色は初めて聴いたが、透明感のある美しい音色でアンビエントにも最適だと思った。しかし、ハンマーで叩く速度を上げていくと異国情緒漂うエキゾチックな音色に変わり、エレクトロニックミュージックにミックスさせたら心地良いトラックが出来上がると思った。東南アジアが発祥の地と思っていたら、中央アジアを起源とする琴の祖先と言われており、東洋に限らず西洋にも浸透しており、西洋ではピアノやチェンバロの祖先とも言われているマルチな打弦楽。
ハンマーダルシマーの演奏がない時は、三味線と琉球語の古典音楽がマイクなしのアカペラで披露された。コンクリート剥き出しのフォイエルレの館内に響き渡る歌声は凛とした強さがあり、三味線の音色は沖縄の南国の風景を彷彿させ、癒しを与えてくれた。異国で日本の伝統文化に触れるとエモーショナルな気持ちになるのはきっと私だけではないはず。
伝統文化同士のコラボレーションでありながら、展開の読めないコンテンポラリーなアプローチを感じさせたのは振付家の上村苑子の演出効果だろう。ロンドンオペラハウスなどでも活躍している彼女は、琉球舞踊の古典様式をベースに現代的な視点から捉えたコンテンポラリーな演出を取り入れ、新しい創作舞踊を創り上げている。無音から始まるオープニング、メディテーションのようにゆっくり鳴り響くダルシマーの音色、精神を集中させる書道、決して激しくない優雅な舞いにも起承転結があり、エンディングまで素晴らしかった。
「パフォーマンスプログラム 2023年」は全7回の公演を予定しているとのことで、舞踏家で振付家の近藤基弥とタンジェリンドリームのメンバーでヴァイオリニストの山根星子の出演も決まっている。友人であり、尊敬する日本人アーティストが多数出演し、活躍の場を観れることは非常に嬉しく、誇りに思う。
(Photography: Wai Kung)
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。