ある日突然、芸術に触れたくなる時がある。それは夏の終わりを告げる合図のようであり、”芸術の秋”とはよく言ったもので、確かに外は涼しくなっているのだ。
まだ暑さがふんわりと残る心地良い9月中、「BERLIN ART WEEK」のオープニングに参加させてもらった。毎年盛り上がりを見せているアートウィークだが、まず、最初にコンテンポラリーアートの合同展示「The ENTER ART FOUNDATION」へと向かった。
ここでは、世界各地で活動する気鋭アーティスト50名の作品が展示されており、絵画だけでなく、写真、コラージュ、立体など、コンテンポラリーならではの個性豊かな発想とフリースタイルの展示を見ることが出来た。
中でも気になったのは、ベルリン在住のアーティスト長尾 洋氏の作品。ビビッドな色合いとアヴァンギャルドなアプローチが第一印象にあるが、細部にまでこだわったコラージュがとても繊細で美しい。オープニング時にも関わらず、すでに買い手が付いている人気っぷり。
ベルリンは貧しい街だけにアートを売るのは大変ですが、そういった中で良い反響を得れているのはとても嬉しい
と語るNAGAO氏。
こちらは、L.AのアーティストTyrone Richards氏の作品。こちらは円状に描かれた黄色のグラデーションが印象的だが、全く違うタッチで、福島の原発を描いたモノトーンの作品も興味深かった。
残念ながら現物を見ることは出来なかったけれど、プロデューサーのMichael氏から作品集を見せてもらい、細い線だけで描かれた色味のない世界は妙にリアルで複雑な気持ちになった。
こちらは人集りが出来ていたAnima Theca氏の作品。この世を去った偉大なるスターたちが小さなボックスとなって登場するユニークな作品。個人的にはアンディー・ウォーホルが欲しかったが、あっという間に買い手が付いてしまったことだろう。
(*それ以外の作品はこちらのHPからご覧頂けます。)
ベルリンは前衛的なアートや若きアーティストを支援する動きが活発で素晴らしいと思うが、何よりどこに行っても感心させられるのは会場である。この「The ENTER ART FOUNDATION」の会場となった古いビルもとても良い雰囲気だった。
当然ながらアルトバウ(第二次世界大戦前に作られた建築)で、崩れたままの中庭にスポットライトを設置し、オレンジの光が差し込む演出(とも思っていない自然発想)がまた良い。そして、こういった退廃的な空間にアートはとてつもなく映えるのである。
続いて向かったのは、アートワイーク最大規模であり、メイン展示会である「abc art berlin contemporary」(以下、abc)へ。駅に隣接した巨大なイベントスペースが会場となっており、合同展示会「PREMIUM」で訪れたことがあっったが、ファッションウィークとはまた違う雰囲気があり、初日の夜から大盛況となっていた。
abcは、美術作品の見本市であり、世界各地のギャラリーが作品展示や販売を行っている。天井が高く、広々した空間を贅沢に使い、各々に展示された作品たちはユニークでありながら、オーラを放っていた。ベルリンには特に多い”自称アーティスト”ではなく、選ばれた作品のみが展示されているからだ。
残念ながらこの日は体調が悪かったため。じっくり時間をかけて見ることが出来なかったが、ベルリンのアートシーンは今後もっと発展していくと感じた。
商業的になり過ぎるのは同時につまらなくなってしまうが、”貧しい街”というレッテルをいつまでも背負ったまま、お金にならない自己満足のインディペンデントで良いという考えは逆にカッコ悪いと思ってしまう。それなら、アンダーグラウンドでブレないまま、世界を掴めば良いと思うのだ。
宮沢香奈 セレクトショップのプレス、ブランドのディレクションなどの経験を経て、04年よりインディペンデントなPR事業をスタートさせる。 国内外のブランドプレスとクラブイベントや大型フェス、レーベルなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。 また、フリーライターとして、ファッションや音楽、アートなどカルチャーをメインとした執筆活動を行っている。 カルチャーwebマガジンQeticにて連載コラムを執筆するほか、取材や撮影時のインタビュアー、コーディネーターも担う。 近年では、ベルリンのローカル情報やアムステルダム最大級のダンスミュージックフェスADE2013の現地取材を行うなど、海外へと活動の場を広げている。12年に初めて行ったベルリンに運命的なものを感じ、14 年6月より移住。