若手の著名メゾンへの登竜門ともいわれる国際デザインコンテストで、ドイツ出身者が3人も最終選考(10人)に残った。
このコンテストは、南仏の保養地イエールで毎春開かれる「国際モード写真フェスティバル」の中核イベント。ヴィクター&ロルフや、ヘンリック・ヴィブスコフといった 国際的なデザイナーも、過去選出されている。
アンネリー・シューベルト(手前2体)、クリスティーナ・ブラウン(奥)
大賞「プルミエール・ヴィジョン最優秀賞」に輝いたのは、アンネリー・シューベルトさん。ドイツのベルリン・ヴァイセンゼー芸術大学修士課程を終えたばかり。
「前掛け」をテーマに、厚手のウール地と軽やかなシルク製オーガンザといった対照的な素材を組み合わせ後ろ開き構造のドレスを創作した。ちなみにベルリン・ヴァイセンゼー芸術大学は、バウハウスの流れを汲む名門でもある。
同コンテストのもう一つの賞、クロエ賞を受けたアンナ・ボルンハルトさんもドイツ出身 。「モード・イミテーション」なるコレクションを作り上げた。よくありがちな服を布から自らの手で作ることで、コピーをオリジナルにするという、ユーモラスなコンセプトに基づく。
最終選考に残ったもう1人のドイツ人、クリスティーナ・ブラウンさんは、背広やワイシャツといった男性向けのアイテムを、ドレープや軽い素材を使うことでフェミニンに解釈し直して、披露した。
このようにドイツには秀でたデザイナーが少なくないのに、不思議と著名高級ブランドというのが少ない。ベルリンやデュッセルドルフ等に拠点を置く人気デザイナーズ・ブランドもあるが、パリやミラノ等のメゾンと比べると、規模が小さい。
なぜだろうか。理由は、ドイツの街を歩き、道行く人の服装をみればなんとなく分かってくる。
都市部であっても大多数の人は、どちらかというと機能的で質実剛健なアウトフィットだ。スポーティーもしくはアウトドア風出で立ちの人がかなり多い。モードで、その上ちょっと高そうな服、というのを着ている人が少なめなのだ。「うわ、お洒落」と目を引く人は、大体外国人である。
また世界に名立たるコンテストの最終選考にドイツ出身者が3人も残った、という快挙でさえも、ほとんど報道されなかった。恥ずかしながら著者自身も7月初めにベルリンのデザイナーを紹介する展覧会「ベルリーナー・モード・サロン」で知ったくらい。世の関心も低い、ということなる。
優秀な大学があり、そこで逸材を輩出しても、そんなことから国外に出てしまったり、国内でマス向けのアパレル企業等に就職したりする。
国内紙によれば、例えば上記アンネリー・シューベルトさんもフランスの会社と契約したとか。ドイツの場合ほとんどの大学が公立あることを考えると、公費を使って人材育成をしても、国内ではそれを生かすことが難しい、ということになる。なんだか勿体ない話である。
フランクフルト在住。身長152cm。大きなドイツ人の中にいると小人のように見えるらしい。小回りだけは利くジャーナリスト兼通訳。ファッションからヘルスケアまでをカバーする。