ロンドン・ファッションウィーク・フェブラリー2022 ロングトルソーシルエットで新しさ出す

2022/02/24 06:28 更新


 22~23年秋冬ロンドン・コレクションでは、改めて自身のシグネチャー見つめ、新しいフォルムや異文化を採用してダイナミックに昇華させた中堅デザイナーのクリエイションが際立つ。新人がクロップトップやローライズボトムでロングトルソーを強調するY2Kファッションをストレートに表現する一方で、中堅デザイナーはそうしたフォルムの変化や楽観的な気分を、よりかみ砕いた形で新作に投影している。

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 マティ・ボヴァンが、2年ぶりにフィジカルにカムバックした。ダイバーシティー(多様性)とサステイナビリティー(持続可能性)という従来の価値観を大きく覆す現代ファッションの着地点を、パンク精神にあふれる奔放なクリエイションでアピールした。テーマはアメリカ。2カ月間ボーイフレンドの故郷であるコネチカット州に滞在し、フォークロアや初期のアメリカンキルトに触れた。一方、10代に見たアメリカのテレビ番組、野球、チアリーダーなどに思いを寄せる。そうして登場したのは、スタジアムジャンバーや星条旗、プリントTシャツと、フォークロアな柄をのせたラグのようなジャカードニット地やカントリーチックな大柄のギンガムを自由に組み合わせたハイブリッドスタイル。そこに「カルバン・クライン」のジーンズとデニムジャケット、「アディダス」のトラックスーツ、さらには「ヴィヴィアン・ウエストウッド」のタータンジャケットといった、著名ブランドのデッドストックも素材として盛り込む。サステイナブルな物作りの中でも、手っ取り早い手法として多くの若手が試みるアップサイクルを、アートやクチュールに通じるレベルにまで昇華させたクラフトワークはこのデザイナーならではの手腕。レディスブランドとして成長し、大きく膨らむスカートなどもたくさん登場する新作だが、ファーストルックとフィナーレを飾ったイリーナ・シェイク以外のモデルは全員男性だった。常にジェンダーニュートラルな物作りをして、その大半を男性である自身で着ているというボヴァンは、今こそ待ち構えていた男性に着せるタイミングだと話す。街にはジェンダーニュートラルな服装の人々が行き交う。ショー会場の公衆トイレの表記が今シーズンから「男性」「女性」ではなく、「男性」「ジェンダーニュートラル」に変わった。60年代の公民権成立前にそこにあったもう一つの扉「有色人種」が消えて以来のダイナミックな変化を祝福するような、ピースフルなコレクションで会場を沸かせた。

マティ・ボヴァン
マティ・ボヴァン

 モリー・ゴダードは、見上げるほど高く大きなキャットウォークにパワフルな新作を着たモデルを闊歩(かっぽ)させた。アイテムは、チュールのドレスや、スカートに山盛りにフリルを飾ったドレス、フェアアイルセーター、ケーブル編みの袖が付いたオフホワイトのツインセットといったこれまで幾度ともなくデザインしてきたもの。ところが、ロングトルソーシルエットを強調することで、新しいアイテムに生まれ変わる。ワンピースは太ももの下だけにティアードフリルが踊り、セーターやツインセットはゆったりと長く腰まですっぽり包む。80~90年代に皆が夢中になったポートベローとカムデンの蚤(のみ)の市がテーマで、長いセーターはそこで見つけた男物というストーリー。いかにも蚤の市にありそうな馬や天使が描かれたTシャツをトップやワンピースに仕上げたアイテムも目を引く。

モリー・ゴダード(写真=Ben Broomfield)

 リチャード・クインが、前回にも増すゴージャスな会場と演出でエキセントリックなクチュールスタイルを披露した。高い天井から巨大なシャンデリアがつるされ、ピンクのじゅうたんとピンクのカーテンで覆われた正方形の部屋の真ん中で、オーケストラがクラシックを奏でる。その周りを、誇張したシルエットのクチュールコートを着たモデルがゆっくりと歩く。大きな帽子をかぶり、手にはハットケース。次第に帽子はさらに巨大化し、顔を覆ってクラウンの穴から目がのぞく。コートやジャケットは細身になるが、襟がフードのように伸びて頭をすっぽりと包み、三角錐(すい)のシルエットを描く。パフボールスリープのミニドレスや足や手先まで同じ布地で全身を包み込むスタイルも健在だ。それらのほとんどに鮮やかな花柄やドットがのる。2年ぶりのショーとなった前回はフューチャーリスティックな方向に進んだが、今回はこのブランドのシグネチャーであるフェティッシュな要素を盛り込んだネオクラシックスタイルに回帰して存在感を見せつけた。

リチャード・クイン

(ロンドン=若月美奈通信員)

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