ロンドン・ファッションウィーク・フェブラリー2022 ボリュームモデルが放つナチュラルビューティー

2022/02/25 06:28 更新


 22~23年秋冬ロンドン・コレクションは、ワイルドな強さを秘めた力強いデザインがリードしている。ベルベットや総スパンコールの輝きがそれを促す。一方でスポーティーなパッテッドジャケットも必須アイテム。ボリュームモデルが登場しないショーがほとんどないほど、女性のナチュラルなボディーをたたえるクリエイションが広がっている。

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 シモーン・ロシャのショー会場に入ると、ふんわりと優しいシモーンのボリュームドレスを着た観客やスタッフが集まり、まるでロリータのお茶会のような独特のムードを放っている。もっとも、そんなドリーミーなホワイトドレスとは裏腹に、重厚な中世の建物内は真っ暗でおどろおどろしい。スポットライトに照らされて登場した新作も、黒い大きなドロップショルダーのコートドレスやオーバーサイズのテーラードジャケット。前シーズンの神聖な透明感は吹き飛び、ずっしりと重い。次第にオフホワイトのチュールドレスやほっそりとしたシュミーズドレス、ケーブルニットのカーディガンとホットパンツのセットアップといった軽いスタイルも登場するが、ジュエリーを散らしたロンググローブやサイハイソックスを合わせて強さが見え隠れする。

 テーマは、アイルランド人なら誰もが知っているという「リルの子供たち」という神話。嫉妬深い継母(ままはは)によって、アイルランド王の2人の娘と2人の息子が白鳥に変えられ、900年後に人間に戻ると死んでしまうというダークファンタジーだ。それは、2匹の白鳥が向かい合ってハートを描く刺繍がのるシュミーズドレスや、裾にぎっしり羽根を飾ったスカート、白鳥の頭を連想するすっぽりと頭を包むニットフードなどにストレートに投影されている。男性モデルは息子の設定だろうか。マントを着たボリュームモデルもいて、もっと自然な成り行きなのかもしれない。そんなストーリー性のあるコレクションだが、アイテム的にはいつもながらのシモーンスタイルで、最近好んで出しているバイカージャケットはバラバラに解体され、あちらこちらからドレスの布地がはみ出る。中盤に登場するブルーのベルベットのドレスも、その光沢からホラーなムードを感じるが、シースルーになったフロント部分にはこのブランドのシグネチャーであるジュエリー飾りが走る。血で殴り書いたような真っ赤なラインが踊るクリーム色のドレスに続き、ばらばらに解体された真っ赤なバイカージャケットで物語は完結する。前シーズンの子育てに続き、アイルランド人というパーソナルな一面を投影した力強いコレクション。

シモーン・ロシャ
シモーン・ロシャ

 16アーリントンのショー会場には、独特の緊張感と厳かな優しさが漂う。ショーが始まると、こらえきれずに涙を拭う観客が相次ぐ。公私ともにパートナーのマルコ・カパルドとキッカの愛称で知られるフェデリカ・カヴェナティは昨年9月、待望の本格的なショーデビューを飾る予定だったが、急きょキャンセルされた。その1カ月後にキッカは急病で28歳の若さで他界した。彼女の遺志を継いでマルコが1人で仕上げた新作は、何となくブリンブリンなこのブランドのセクシースタイルが、少し落ち着いた感じで継続された。ピッタリトップにはローウエストのマイクロミニや膝丈タイトスカートを合わせる。あるいは裾のフレアが揺れるピタピタのパンツ。スパンコールの濡れた輝きに羽毛使い、高いプラットフォームブーツなど、キッカの世界観が随所に盛り込まれている。

16アーリントン

 ポール&ジョーは、前回に続きロンドンでの発表となった。新作は20世紀初頭の英国の婦人参政権活動家、エメリン・パンクハーストをミューズに、レトロな優しさと強さが交錯する。ツイードやコーデュロイ、ブリティッシュチェックといったクラシックな素材をキーに、スクエアな襟、襟やカフスの刺繍飾りでヒストリカルなムードを出す。バストの下で切り替えたワンピースや、ジャケットの高い位置を細いベルトでマークしたハイウエストのバランスが、ローウエストが主役の今シーズンのロンドンで逆に新鮮に映る。デザイナーのソフィー・メシャリーの次男、エイドリアン・アルボウが手掛けるメンズも加わり、ボーダーニットに合わせるベルベットのテーラードスーツやセーラーカーディガンに太畝コーデュロイのパンツなど、クラシックで若々しいスタイルが登場した。

ポール&ジョー

 ヴィヴィアン・ウエストウッドは、家具や絵画が無造作に積まれたオークションハウスで撮影した映像をデジタルで配信した。「ワイルド・ビューティー」と題した男女の新作は、寅(とら)年にちなみ、01年にゴールドレーベルで発表した同名のコレクションが出発点となった。様々なタイガープリントをのせたワンピースやジャケット、スクエアに広がる大きな肩のブルゾン、フロントの布地を摘んでスリットを入れ、大型の猫科動物のしなやかな動きを表現したスカートなどが揃う。スクリーンプリントによる触感の違う柄が多いのは、デッドストックの布地を再利用しているため。ヴィヴィアン自身が描いた眼のモチーフとともに、小さな子供のイラストがずらりと並ぶ総柄が多用されているが、この柄も01年のコレクションからの引用。英国の小学校で伝統的に行われている児童の絵をティータオルにプリントして販売する寄付金集めのもので、当時の子供たちが描いた。

ヴィヴィアン・ウエストウッド

(ロンドン=若月美奈通信員)

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