自然の中からリアルな発信
地域の生活や文化に根差したローカルブランドが元気だ。アウトドアの新興ブランドでは、自然の中からのリアルな発信が消費者への共感を生む。ネット販売やSNS(交流サイト)が進化し、かつてのように東京の大企業に優位性があるとも限らない。地元の歴史や風土を背景にしたピンポイントで濃いブランドだからこそ、飽和と同質化に苦しむマーケットを揺さぶる力を持ち得る。今、ローカルからグローバルへの扉は開かれた。
13年6月、活動拠点を群馬・みなかみ町藤原の標高1000㍍の山中に移した「マン・オブ・ムーズ」(ボックスオフィス)。今年3月、新アウトドアライン「マウンテン・オブ・ムーズ」15年秋冬物を満を持してお披露目した。
グローバルに挑戦
福山正和代表は元プロスノーボーダー。03年メンズブランドのマン・オブ・ムーズを開始し、「モードとスポーツの融合」をテーマに支持を得てきた。スポーツの世界で戦ってきた福山代表は、純粋な心で高みを目指している。常々語っていたのは「自身のスノボ背景を生かすこと」と「世界での販売」。4年前の展示会では、理想に向けて何が物足りないのか、試行錯誤しているように見えた。
12年、アウトドア仕様のスリーレイヤードジャケットを開発、1年後に社員とともにみなかみへの移転を決意する。ペンション用建物を借り、デザインからパターン、サンプル作りを行う。
仕事が煮詰まれば、ボードを担いで雪山を登って滑走する。季節を問わず森の中でキャンプ。山での生活は、リアルに欲しいウエア、グッズ、ギアのプロダクトデザインに変化を起こさせる。「どっぷりと漬かり、スノーライフスタイルの洋服作りを研ぎ澄ますことができている」と目を輝かせる。
都会を離れ、逆に発信力も高まっている。SNSで雪山のリアル環境を書くと、グローバルに反響がある。「ローカルの方が都会にいるより強い。東京では伝えることに苦労した」
マウンテン・オブ・ムーズは2年かけて「山で使えるアイテム」となった。防風・撥水{{はっすい}}・透湿の素材使い・デザイン・切り替えに気を配り、ファッション性を押し出す。国産も追求。インナーダウンジャケット(4万6000円)では、同じ群馬・富岡のフィル加工シルク「グンマシルク200」を使用。イチ押しアイテムとして発信する。アウトドアブランドで世界で売れる日本ブランドは少ない。ディレクターとして、そこに挑戦する一歩を踏み出した。
本当に必要なもの
「波乗りが毎朝の日課のようなもの」。アウトドアブランド「ルールズピープス」(アンコモンクリエーション)の小栗大士代表は、サーフィン好きが講じて10年以上前に千葉県鴨川市に移住した。
鴨川はサーフィンはもちろん、キャンプやトレッキングなどアウトドアライフを楽しむ環境にあふれている。移住者の多くは〝大量生産・消費〟の世界から距離を置き、シンプルな生活を好む。小栗代表の友人は農作業に親しみ、薪ストーブのある生活が珍しくない。妻もプロサーファーだ。
ルールズピープスは自然と寄り添って暮らす中で、本当に必要なアイテムを日本で作る。シンプルかつ機能的で着心地が良く長く着られるのがコンセプト。そのため、国内メーカーと糸から素材のオリジナル開発に取り組む。主力の「スマイルウール」は極細のメリノウールにオゾンで防縮加工した裏毛を使ったカットソー。軽くフワフワで気持ちいい肌触りが特徴だ。
卸し先は国内で30~40店。2年前から海外へも販路が広がり、米、英、カナダなど10店以上になった。卸し先と共生するための販売支援の一環として、現地を訪れ、各店のスタイル提案をウェブサイトで発信する。
オーガニックコットンやヘンプを使った物作りで環境負荷の低減を目指しながら、小栗代表は普段の生活でも実践する。オフィス兼ショップは職人の協力を得ながら自分たちで作り上げた。太陽光発電と薪ストーブを設置し、自然浄化の下水、堆肥に使えるトイレ、井戸水を使用するなどの徹底ぶり。
「将来的には自社でミシンを揃えて工房を構えたい。その先、地元で若い人と一緒に綿花を育てるのが夢」。広い土地でも安いため、実現可能なのが地方の強みだ。
(15/04/27 19228号 1面)