コロナ禍以前には1月初頭に開かれていたロンドン・メンズコレクションが2月のレディスと統合され、ミラノやパリに発表の場を移すロンドンのメンズブランドが増えている。一方、独自にデジタルで新作映像を発表する注目ブランドもある。
キコ・コスタディノフは、パリ・メンズコレクション期間中にショー映像を発表した。新作は、どこかつかみどころのない切り替えで仕上げる立体的なフォルム、バイカラーの配色。アシンメトリーなひねりといったこのブランドの特徴を継続しながらも、神秘的なエレガンスが漂う。それは、ダークグレーを基調とした色使いや、撮影の舞台となったメキシコ市のアナワカリ博物館の壮大な空間によるものだけではないようだ。
イメージする世界はデザイナー自らはまったというオンラインゲームの新しい神話。とりわけ「リネージュ2」のエルフ族とあって、ファンタジックかつジェンダーレス。中世の装飾的な服や鎧(よろい)など歴史的な男服が、軽くしなやかに仕上げられている。クロシェを多用しているのも特徴で、コーディネートのアクセントとなる海藻のような細長いストールに加え、スペンサージャケットのショールカラーにも採用。マオカラートップの上に重ねるクロシェのノーカラージャケットもある。
ニットも多く、チュニック丈のバイカラーセーターやフロントだけにストライプを配したアシンメトリーなフォルムのセーター、裾や袖先に柄をはめ込んだコンパクトなパーカが揃う。パンツはソフトな仕上がりで、湾曲したラインを走らせたり、脇をカットしてフレアに広がるライン入りの裾リブがつく。アクセサリーは斜めがけするレザーのポシェット。
カシミは、パレスチナのマルチメディアアーティスト、バゼル&ルアンによる映像や音、メッセージを背景に男女のショー映像を配信した。中東や北アフリカのクラフトと西欧の文化やサブカルチャーを融合させるスタイルは今回、目が覚めるようなエレクトリックカラーとオプティカル柄が目を引く。90年代英国のレイブカルチャーに目を向けたもので、それをフォーマルウェアと交錯させる。
一見相反するこの二つのスタイルだが、ともに楽観的かつコミュニティーの気分を盛り上げるものという。エレクトリックグリーンのテーラードスーツはパジャマのようなシルエット、オプティカル柄はシャドープリントのように自然に溶け込む。フィッシュネットと短冊のようなフリンジも多用され、袖口のフリンジが長く垂れるフィッシュネットのインナーに半袖のトップを重ね、レディスのドレスやスカートは太ももから短冊状の布地が揺れる。胸にPALESTINE、背中にパレスチナの地図がプリントされたTシャツやパーカは即日販売され、収益は国連NGO(非政府組織)ディフェンス・フォー・チルドレン・インターナショナルのパレスチナ支部に寄付される。
アーデムは、2シーズン目のメンズコレクションをティザーのような42秒の映像とルックブックで発表した。クラシックなテーラードスーツやオーバーコートはマルチカラーのブークレツイードやペールイエローの毛足の長いアルパカ、オレンジの縮絨(しゅくじゅう)ウールで仕立てられ、どこかノスタルジックだ。丸みを帯びたピークトラペルのジャケットやグラフィカルな太いストライプを組み合わせたシャツもある。今シーズンの着想源となったウィーンの女性写真家マダムドラ(ドラ・カルムス)が1930年代に撮影したポートレートからの引用だ。
もう一人、同じ時期にカラー写真のパイオニアとして知られたロンドンの写真家マダムイェヴォンデ(イェヴォンデ・ミドルトン)の作品も新作に投影されている。マスタードやラセットブラウンといった色使いや、植物写真から引用したシャドーフラワーがそれ。コーデュロイやカマーバンドもレトロモダンな雰囲気を助長する。ダークカラーにのせた鮮やかな花プリントも健在で、シャツとパンツのセットアップやそこにボマージャケットを加えたスリーピースに同柄の帽子をかぶり存在感を出している。
(ロンドン=若月美奈通信員)
クレイグ・グリーンが、久しぶりにロンドンでショーを行った。ロンドン・ファッションウィークスタート前の、フライングショーの会場となったのはロンドンシティ空港近くの巨大な倉庫。シティ空港は他に比べるとロンドン中心からは近いが、空港だけあり交通機関では1時間はかかる東の端。ファッションウィーク中には到底たどり着きようのないロケーションなのでオフスケジュールにも納得だ。
フィジカルのカムバックを祝うかのように行われたショー。コレクション自体も〝体感〟することに重きを置いたテキスチャーだ。これまでもこだわりを持っていたテキスタイルだが、特に今シーズンはバラエティーに富んだものだった。ナイロンのセットアップの開いたジップから生えているかのように伸びるウール、その横に垂れたパネルの裏地もコーデュロイでコントラストを付ける。巨大イカのようにも見えるゴムのピースがボディーを包み込む。毛足の長いメタリックにパネルでコントラストを付ける。インナー特有の位置にある胸ポケット、そしてスナップボタンがひっくり返っている。裏返しに着ているのだ。後半のボリュームニットもわざと裏返しにすることで、普段は肌に触れないもこもこ部分を感じられるようにした。
テキスタイルと並んで目を引いたのは「インフレータブル」。空気で膨らむアイテムだ。首のサポーターからバグパイプのような巨大なバルーン、さらにはスペーススーツのようにボディーを包むアートピースまで、「プロテクション」をデザインコンセプトの一つに常に挙げるクレイグだが、その要素を今回も感じた。柔らかいモノに包まれたコンフォートなのか、それとも空気でパンパンに膨らんだモノに囲まれた閉塞(へいそく)感なのか、クレイグがロックダウン中に感じた二面性を見ているようだった。
(ライター・益井祐)