《広げる編・ブランディング》迷子になっても“言葉”に帰る
ブランドポートフォリオを考える際、百貨店、ファッションビル、SC向けとチャネル別に描くのが一般的だ。しかし、マッシュスタイルラボの4ブランドの出店先は、都心型の百貨店、ファッションビルに偏る。店が隣接していても独立した個性を放つのは、社内外での一貫したブランディングにある。
合致点を見つける
都心型ブランドの開発が相次ぐ理由を、社長の近藤広幸は「それしか詳しくないから」という。「現場にニーズがあるから、市場を全力で勉強するとこうなった」と明快だ。近藤が自分の目で確かめ、納得してから踏み出す。それを形にするのは社員たち。だからこそ、「コンセプトが末端の社員まですとんと落ちる、〝芯〟の言葉が出てからでないと動かない」。スナイデルは「ストリートフォーマル」、ジェラートピケは「大人のデザート」のように、「思考が迷子になった時に立ち返る家のような言葉」を追求する。
「どうして今ショートパンツの気分なのかな?」「前の流行と何が違うと思う?」。執行役員企画部部長の楠神あさみは、事あるごとにデザイナーたちに問いかける。みんなで考え、合致点を見つけることでブランドの方向性を明確にしていく。「誰も天才じゃない。自分の気持ちが見通せているかというと、そうでもない。だからこそ、お互いが納得できる落としどころを探る」。みんなが理解しないと、「ブランドらしい着丈、分量感を見誤ってしまう」からだ。近藤も、デザイナーに注意する時は、「頭でブランドのフィロソフィーを反芻(はんすう)してから」という。
顧客の心を満たす
渋谷パルコのスナイデルで買い物した女子大生(21)は、「バイトのお給料が入ったら、ほぼ洋服代に使っちゃう。月5万~6万円ぐらい」と笑う。ヤングが服にお金を使わないと言われて久しいが、同社は服好きをしっかりつかんでいる。「(マッシュのブランドは)イメージがいいよね」と、競合する企業の社長も評価する。それは、こだわり抜いた商品、店装だけの効果ではない。
販促は極めてオーソドックスだ。雑誌のタイアップが中心で、SNS(交流サイト)の発信も他社ほど頻繁ではない。モデルの来店イベントも、館からの要請があればやる程度。期中セールもしない。「不特定多数よりも顧客への打ち出しを重視している」とは、スナイデルプレスの鈴木詩織。
出店時も、顧客だけにケータリングを振る舞うなど、「値引きではなく、商品を買う以上の非日常な演出」に気を配る。近藤も、「ブランドが世の中に伝わってからは、ファンをどうやっておもてなしするかに費やすべき」と言い切る。顧客の心を満たし続けることで、ブランドイメージを落とさず、唯一無二の存在感を放つ。
=敬称略