ひつじ工房Meadow&Sheep(メドウ&シープ、愛知県豊田市)の須賀いづみさんは、ニュージーランドの羊毛に魅せられ、買い付けた原毛を手作業で染めて糸にし、帽子やニット製品などを作っている。柔らかな風合いと個性あふれる色合いが人気で、個展や合同展のほか、百貨店の企画展などにも販路が広がっている。
(神原勉)
泥藍も自宅で手作り
作品の特徴の一つは、糸の色目の面白さだ。「カラードウール」はそのままの色を生かし、「ホワイトウール」は糸になる前の状態で染め、異なる色を混ぜ合わせて糸にする。染料を買うこともあるが、夏場は自宅の庭で栽培した藍から泥藍を作っている。刈り取った藍を水に浸し、発酵させたものに消石灰を加え色素を沈殿させる。
作業場は自宅の庭だ。ひさしはあるが、あまりの暑さに何もしなくても汗が吹き出る。始めたころは自宅の周りは田んぼばかりだったが、今では住宅が建ち並び、強い臭いは近所迷惑になる。そのため、臭いのきつい作業は、近所が窓を閉め切る冬か夏に行うようになった。
紡ぐ前にカーディングという工程で繊維の向きを揃える。ここは電動のカード機を導入しているが、糸にするのはニュージーランド・アッシュフォードの足踏み式の手紡ぎ機だ。差し入れる手の動きや足踏みの速さで糸の形状が変化する。
ほぼストレートな糸や太さが途中で変化するスラブ糸、普通の糸を芯にして太めのスラブ糸を撚った糸など形状は多彩だ。これに様々な色が重なり、組み合わせは無限に広がる。重ねることでストールにもなる極太のロービングヤーンや帽子(8000~1万5000円)など、糸の魅力を引き出した作品は人気が高い。
自分のやり方で
ニュージーランド産羊毛との出合いは22年前、銀行に勤めていた須賀さんがワーキングホリデーを利用してニュージーランドを訪れた時だ。着陸間際に飛行機の窓から見下ろすと、空港の周りの緑が広がる中に白い点々が見えた。「何だろう」と思って見ていると、だんだん点が大きくなり、形が分かると「羊やん」と思わず叫んだ。その感動が物作りの原点となり、メドウ(放牧地)とシープ(羊)は工房の名前になった。
大学時代、染色化学を専攻していた須賀さんは、到着後、クライストチャーチのアートセンターに飛び込み、手紡ぎの実演をしていた年配の女性に弟子入りを志願。断られたものの、サークルを紹介してもらい、基礎を教わった。もっとうまくなりたいと教えを請いに訪ねた達人は、「人と違っても大丈夫。自分のやり方で作りなさい」と励ましてくれた。ルールや決まりに縛られない自由な作風が須賀さんの作品の魅力になっている。
使う原毛は、メリノとロムニーやコリデールとのハーフブレッド。柔らかくて細く、それでいてハリがある。長年、懇意にしている牧場に出向き、滞在中は羊の世話をしたり、柵の修理を手伝うことも。お互い、人柄まで知り抜いているから、取引はスムーズだ。メール1本で要件が伝わる。1キロ単位で販売してくれ、洗いもしてくれる。今年はホワイトウール20キロ、カラードウールを15~20キロほど買い付けた。2、3年で使い切る量だ。
気掛かりなのは、原毛価格が上昇していること。製品の価格も上げざるをえないが、「〝作品の力〟以上の値段にならないように」できるだけ値上げ幅を抑えるため、節約に努めている。