《めてみみ》春の訪れ

2020/03/09 06:24 更新


 遅れるのを見越して早めに乗るバスが、定刻に駅に着くようになった。通学の送迎や通勤のための自家用車が減っているのだろうか、道路がすいている。以前なら、ハンバーガーやコーヒーチェーンのドライブスルー待ちで、駐車場から車道にはみ出ていた車の列も見かけなくなった。見慣れた風景がすっかり変わっている。

 店頭ではシーズンが切り替わり、明るい色目の春物が、穏やかな日差しを浴びに出かけようと誘っている。まもなく桜も咲き、外出が楽しい季節。重くて暗い冬が終わり、軽くて明るい春が到来すればなおさらだ。どこかに出かけたいと思う気持ちが、服を買おうかと悩む背中を押す。

 ただし今年、その足は重い。日を追うごとに人の出は鈍くなっている。出かけたい気持ちはあっても足が出ないようだ。買い物客が向かう繁華街も、買った服を着ていく行楽地も、いつもの見慣れたにぎわいは見られない。

 ファッション好きに支持され遠隔地からも人を呼び込む専門店も、「これからが怖い」と心配する。天候や好不況に左右されず、安定した売り上げを続けてきたが、いくらファッションが好きでも、出かける気分にならなければ新しい服を買おうとは思わないからだ。

 安心してどこにでも出かけられるようになり、見慣れた風景が戻るまで、厳しい状況は続きそうだ。



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