昨年末、大手アパレル企業の社長が新宿にある商業施設を訪れた際、こんな印象を持った。「なんだ、結構お客さんが入っているじゃないか」。それを施設の運営責任者に告げると「とんでもない。客数は前年比で3~4割は減っている」との答え。
話を聞くと、昨年4月に最初の緊急事態宣言が出された直後に新宿駅の乗降客数は通常の2割にまで減った。宣言解除後も客足は戻らず、その後の感染者数再拡大で、さらに回復が見通せない状況という。
JR、京王、小田急、東京メトロ、都営地下鉄が乗り入れる新宿駅は一日の乗降客数が350万人を超え、世界最多だ。豊富な人の流れを当てにして商業施設や百貨店、路面店が林立している。
頻繁には訪れない人間の目から見れば、そこそこ客が入っているように見えても、それはかつてない低水準なわけで、その社長は「新宿の客数がどれほど桁外れなレベルにあったか、こんな事態にならなければ気づくことはなかっただろう」という。
バーニーズニューヨーク新宿店が2月末で閉店する。店舗老朽化もあるが、圧倒的な客数を前提にした高い家賃に見合う売り上げが取れなくなったことが大きい。多くの人が訪れるから、家賃が高くても都心で店を、という前提は崩れた。小売りは店を出す場所や意味について改めて考える必要がある。