上京する前からずっと故郷を好きになれなかった。漠然と東京に憧れていた。地元愛に目覚めたのは10年ほど前だった。きっかけは東日本大震災での被災地取材。地震発生から2週間後の大きな余震が続いた仙台で地元の個店やプリント工場などで話を聞いた。その人たちへの取材は今でも定期的に続けている。
その後も、津波で宮城県石巻市の縫製工場が全壊したカットソー製品メーカーをはじめ、新店の移転オープンが遅れてしまった福島市郊外の個店、20年以上福島県いわき市を拠点に作り続けるストリートブランド、震災復興を機に省エネ運営に切り替えた岩手県久慈市の縫製工場、福島県浪江町からいわき市に移転し再出発したバッグ工場などなど。毎年3月に掲載する紙面を通じて被災企業を応援してきた。
本紙で「ローカルでいこう」「名店100選」などの企画が立ち上がったのも震災から2、3年後だった。それまでファッションの中心だった東京という圧倒的な存在が揺らいできたのも震災後だったのではないか。
地方に点在する作り手とつながったローカルブランドの存在感が増している。ECやSNSの進化も脱東京の動きに拍車をかけ、コロナ禍が追い打ちをかけた。これからも東北をはじめ、ローカルに広がる地元愛にあふれた新しい動きを追いかけていきたい。