ベトナム・ホーチミン市にある老舗ホテルの一つがマジェスティックホテル。創業は1925年で、旧フランス植民地時代を代表する白亜の建物である。ベトナム戦争時、作家の開高健氏が取材の拠点としたことでも知られる。今も103号室には、「開高健ルーム」の銘板が掲げられている。
今春、ホテルの真向かいにあるサイゴン川の遊歩道に、あるモニュメントが飾られた。1973年に日本とベトナムは国交を樹立、モニュメントは今年9月に迎える国交50周年を記念するものだ。ホーチミン高島屋では日本の文化を紹介する特設コーナーが設置されるなど、両国関係は日々深まっている。
ふと気づいたのは、国交樹立の73年という年。ベトナムの南北統一は75年だから、まだ南北に分かれて混乱していた時期に、日本は当時の北ベトナム政府と国交を結んだことになる。思えばマジェスティックホテルも一時、日本ホテルと改名されたことがある。第2次世界大戦中に、日本軍がベトナムに進駐し、日本政府がホテルを接収したという歴史がある。
今や日本の衣類輸入量に占めるベトナムの割合は15%まで高まった。中国の補完的な存在を脱し、主要生産国の一つとなった。日本がベトナムに強いた負の歴史を忘れることなく、新しい半世紀を作っていきたいものである。