親を虜にする子ども靴専門店のヒミツ

2015/03/12 11:33 更新


《販売最前線》ムーンスター「ゲンキキッズ」が元気

測定+専門的な接客で 直営の成果、卸事業にも生かす

 靴メーカーのムーンスター(福岡県久留米市)が運営する、子供靴専門店の「ゲンキキッズ」が好調だ。足型計測器の無料利用サービスと、それを生かした専門性の高い接客が好評を博している。子供靴売り場というと量販店などのセルフ販売が主流だが、正しい選び方をコンサルティングするゲンキキッズは、靴選びに悩むパパ・ママたちからの信頼を得ている。

(杉江潤平)

正しく育てたい

 「はい、じゃあここに足を置いてみようか?」。ステラタウン大宮店の片岡昌美店長が、2歳の女の子に優しく声を掛ける。女の子がL字型の装置に立つと、脇のパソコン画面に足を写した画像が現れた。店長は測定データを母親に見せながら、「お嬢様の足のサイズは15センチですね」と伝えると、「えー? 今の靴は小さかったんだ。でも履けてたんだけどな…」と、母親は首をかしげる。そこで店長は「足囲が1Eと細いので、小さくても履けていたんですね」と説明。続けて甲周りが細めの靴を揃えたコーナーへと促した。

6足型計測器に子供をまっすぐ立たせて計測する。中には怖がる子もいるので、うまく立たせられるかは販売員の技量次第
6足型計測器に子供をまっすぐ立たせて計測する。中には怖がる子もいるので、うまく立たせられるかは販売員の技量次第

 ゲンキキッズの強みは、足長と足幅、足囲を瞬時に測定できる計測器「フッ撮る」を活用した、こうした専門的な接客だ。久留米本社内にある「月星大学院」で子供の足に関する知識や正しい計り方などを学んだ100人以上の販売員が、全国で接客にあたっている。

 先の客に対しても、「2~3歳は年に1.4センチ成長しますから、3~4カ月に一度は計測を」「今は足裏の骨と筋肉を鍛える時期で、靴内で指を動かせるようにつま先に7ミリ~1センチ余裕を持たせたほうが良い」といったアドバイスをしていた。父親は「これまではデザイン重視で子供が好む靴ばかりを選んでいたが間違っていた。今後は足に良い正しい靴を履かせたい」と納得した様子だった。

測定結果を親に伝え、選ぶべき靴をアドバイスする片岡店長
測定結果を親に伝え、選ぶべき靴をアドバイスする片岡店長

 そもそもムーンスターがこの業態を開発したのは、扁平(へんぺい)足や浮き足、外反母趾(ぼし)など、子供に増える変形足に対し、メーカーとしてできることを追求したのがきっかけ。ホームページや小売店などを通じ寄せられていた親からの悩みに、「正しい靴の履かせ方を、正しいサイズで提案し、子供を正しく育てたい」と、06年に1号店を出した。

購入前の試履きは必須。「足指が動かせるよう、つま先に0.7~1㌢のゆとりを持たせるのもポイント」と説明する
購入前の試履きは必須。「足指が動かせるよう、つま先に0.7~1㌢のゆとりを持たせるのもポイント」と説明する

 それまで子供靴売り場と言えば、多くの商品から子供に合いそうな靴を親が選ぶセルフ型が主流。しかし、子供はきつさや痛さをうまく表現できないため、「子供に適した靴を選べていないのではないか」と悩む親は多かった。実際、ここ1~2年はディベロッパーからの要望もあり、店舗数は増加。既存店売上高も伸びている。少子化の影響から縮小傾向が続く国内の子供靴市場で、異彩を放っている。

お気に入りのレインシューズが見つかってゴキゲンの女の子。ハイチーズ!
お気に入りのレインシューズが見つかってゴキゲンの女の子。ハイチーズ!

理論武装の一環で

 もっともムーンスターとしては、やみくもに店舗数を広げるつもりはない。同社の主力事業は、代理店や小売店への卸売り販売。中長期計画「MSビジョン150」では、消費者との接点強化・拡大策を掲げているが、直営店舗で得られた消費者ニーズは、あくまで卸販路で売られる商品の開発に生かすのが目的だ。案納慎一執行役員営業推進・FC事業担当も、直営政策は「セルスルー(販売)充実のための〝理論武装〟だ」と強調する。

 店頭情報が商品開発に生かされた事例は多い。例えば、よちよち歩きの赤ちゃん用シューズ。「外履きとしても履ける、しっかりとしたファーストシューズを」という要望を受け、従来のファーストシューズよりもかかと部分を硬めにし、サポート性能を高めたものを作った。

 店頭の声は販促物の改善にも活用されている。同社は14年春夏から、足指の運動を促進するインソールを搭載し、土踏まずの形成をサポートする「あしゆびゲンキシューズ」を発売しているが、「通常のタグで説明文を付けても読まれないし、インソールだから見た目にも分かりづらい」と、店舗側から指摘が入った。そこで、足指をかたどったオリジナルのタグを作り、靴ひもにつけ、目を引くよう工夫した。

3店頭の声を生かして作られたファーストシューズ。従来よりしっかりとした作りとなっている(本体価格4300円)タグ

写真左=店頭の声を生かして作られたファーストシューズ。従来よりしっかりとした作り(4300円)
写真右=視覚的に分かりやすいユニークなタグも、店舗スタッフの意見を取り入れた

 

 本部と店頭のこうしたやり取りを仲立ちするのは、スーパーバイザー(SV)だ。現在、6人の担当者が全国を回り、店頭の声を吸い上げたり、本部の趣旨を店舗へ伝えている。SVの一人、清水均さんは「卸先の近くにゲンキキッズが出店しているケースもある。取引先の競合とならないようにするには、価格競争をしないこと。商品やPOP(店頭広告)の作り方、接客など別のところで知恵を出すことが大切になる」と話す。

 ゲンキキッズ ムーンスターが2006年に始めた子供靴専門店。対象は0歳から12歳ごろまで。足型計測器「フッ撮る」を常設し、計測後に、正しい靴選びをアドバイスする。現在、店舗数は37。平均的な店舗面積は約85平方メートルで、約450SKU(在庫最小管理単位)を揃える。そのうち75%が「ムーンスター」などの自社製品だ。



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