ランキングを見るのは楽しい。それが財産となれば、なおさらのこと。
リッチリストの表紙には、ヴィクトリア・ベッカム、エルトン・ジョンと並んで790位に初登場となったアメリカの俳優ジョージ・クルーニ−夫妻の顔も。英国バークシャーに1000万ポンドの邸宅を購入
毎年恒例の英国長者番付「リッチリスト」が発表された。日曜紙「サンデータイムズ」が1989年から発行しているもので、毎号ついているカラー冊子「サンデータイムズマガジン」が、この日だけまるごと「リッチリスト」になるのだ。
そう、それは単なるリストではない。100ページにわたる特集で順位、資産総額、名前、業種に加え、経歴やどうしてその富を得たのか(例えば、会社を売却したなど)がコンパクトにまとめられている。英国人に限らず、英国に財産を有するトップ1000の人々を紹介。個人も多いが、夫婦、あるいは一族で1単位となっている場合もある。
今年見事に1位に輝いたのはウクライナ出身の投資家、レン・ブラヴァトニク氏で資産総額131億7000万ポンド。日本円にして約2兆4000億円。昨年の4位からの浮上となる。ちなみに昨年1位のインド出身のヒンデュジャ兄弟は2位。このあたりは、「へー、そんな人たちなんだ」と思いながらも、それほど興味もなく、名前もすぐに忘れてしまう。
しかし、3位は違う。なんともなじみのある名前。ゲイレン&ジョージ・ウエストン一族。そう、あのプリマークのオーナーである。セルフリッジ百貨店やフォートナム&メイソンなども有している。資産総額110億ポンド。1年間で37億ポンド増という最高の成長率で昨年の11位から突然ベスト3入りし、今回一番の話題となった。
ちなみに、ゲイレン・ウエストン氏の娘で、セルフリッジの副会長兼クリエーティブディレクターのアラナ・ウエストン氏は、母のヒラリーさんと共に、アイルランドの長者番付1位となっている(リッチリストには英国だけでなくアイルランドの250位も掲載されている)。
そのように、ウエストン一族はファッション業界で名を馳せているが、プリマークの親会社はアソシエーティッド・ブリティッシュ・フーズ。つまり、一族の財産には、砂糖ブランドなど、食品関係も含まれている。業種欄は「小売」。
プリマークのトッテンナムコートロード店。その他、トップショップ、リバーアイランド、マタラン、モンスーンといったファストファッションチェーンのオーナーたちが200位以内にランクインしている
さて、本題のファッション関係の金持ちさんたちを見てみよう。
業種はやはり「小売」となっているが、この方はばりばりのファッション関係者といって間違いないのが22位に登場するフィリップ・グリーン卿夫妻。「トップショップ」「トップマン」を擁するアルカディアブループのオーナーで、資産総額は35億ポンド。
同じく22位には、スポーツディスカウンターの「スポーツダイレクト」の創業者で、フットボールチームのニューカッスル・ユナイテッドのオーナーでもあるマイク・アシュレイ氏もいる。彼の業種は「スポーツ用品及びファッション」。ファッション関係者ではないが、22位には掃除機のジェームス・ダイソン卿一族もいる。
38位にはフランソワ・アンリ・ピノー&サルマ・ハエック夫妻がランクイン。ケリングのピノー氏はフランス人だが現在ロンドン在住。奥さまのサルマさんは女優ということで、2人の業種欄は「ファッション&映画」。資産総額26億1000万ポンド。少し飛んで80位には「ファッション&不動産」でバーナード・ルイス一族。ファストファッションチェーン「リバーアイランド」の創業オーナーである。
そして、純粋に「ファッション」とだけ書かれた一族は108位に登場する。ジョン・ハーグリーブス一族。ディスカウント量販「マタラン」の創業者で資産10億ポンド。「トップショップ」のオーナーが「小売」で、「マタラン」が「ファッション」というのは少々腑に落ちない。「マタラン」は鍋やスリッパといった日用品も売っており、「トップショップ」の方がよほどファッションだと思うのだが・・・。
「ファッション」でその次に登場するのはトム・パーソン氏。「誰?」と思いきや、H&Mのオーナーのご子息で、現在ロンドン在住。H&Mの株主であり、ハンプシャーに広大な土地を有しているということで、29歳にして179位、資産6億2400万ポンド。
「ファッション」億万長者のランキングはまだまだ続く。
183位にファッションチェーン「モンスーン」と「アクセサライズ」の創業オーナー、ピーター・サイモン一族。206位にファッションチェーン「ニュールック」の創業者、トム・シン一族、229位にテッド・ベーカーの創業オーナー、レイ・ケルビン氏。
262位には「マックス・スタジオ」というブランドのロシア人オーナーデザイナー、レオン・マックス氏なる人物が登場する。正直、この人知らない。いったい何者なんだろう。319位には「バブアー」のマーガレット・バブアー会長と娘のヘレン・バヴアー副会長のバブアー一族もいる。
そしていよいよ353位に、我らがポール・スミス卿夫妻が登場する。2009年に会社の株式40パーセントを伊藤忠商事に売却したものの、60パーセントは自分の会社。資産総額2億9000万ポンド。日本円にして約522億円というわけだ。
その後、「スーパードライ」などを擁するスーパーグループの共同創業者、ジュリアン・ダンカートン氏を379位に挟んで、410位にはデビッド&ヴィクトリア・ベッカム夫妻が登場する。資産2億4000万ポンド。業種はもちろん「フットボール&ファッション」。
デビッドは現役時代より、現在の方が高収入。つまり、「H&M」や「ベルスフタッフ」などなど、ファッションを中心としたブランドとの提携によるもので、もうこうなったら業種は「ファッション」でしょう、といったところだ。
そう、なんと、ベッカム夫妻よりもポール・スミス夫妻の方が金持ちというわけ。少々意外だが、会社の規模、つまり時価総額を考えれば納得。ちなみに、ミック・ジャガーはさらに下の425位。うーん。やっぱり会社なんですね。財産は。
「ファッション」分野で今回初登場となったのは、856位のナタリー・マセネット氏。ロンドン・ファッション・ウイークを主催する英国ファッション協会の会長として繊研紙面でも時々名前が登場する彼女は、オンラインファッション販売「ネッタポルテ」の創業者。2010年に会社はリシュモンに売却したがCEOとしてビジネスの指揮を継続し、このほど発表されたイタリアの「ユークス」との合併による新会社では会長を務める。
さて、ここまで、カテゴリーを「業種」と書いてきたが、それは正しくないかもしれない。少々曖昧だが「分野」いや、「カテゴリー」「分類」なのかもしれない。
そう気がついたのは、資産7億4000万ポンドで150位のスラヴィカ・エクレストンさんの登場によるもの。彼女のカテゴリーは「離婚」。10年ぐらい前には連続で1位の座にいたF1(フォームミュラワン)グループCEO、バーニー・エクレストン氏の元夫人である。23年間の結婚生活にピリオドを付けた元モデルの美人奥様は、離婚による財産分与により、英国の女性富豪のトップクラスに君臨した。
英国は富豪の配偶者にとっての離婚天国と言われる。通常財産は2分される。つまり、大富豪と結婚した女性は、離婚の際にその半分の財産をいただける権利があることになる。まあ、そこから先は弁護士を通しての裁判になるので、そうそう簡単に半分いただけちゃうわけではないが、かなりの額が舞い込んでくる。
「離婚」と並び、業種とは言えないカテゴリーは「ロッタリー」、つまり「宝くじ」だ。こちらは、富豪との「離婚」より現実的な気がするがどうだろう。そんなことを考えるから、気がつけば宝くじでかなりの散財をしてしまったりするのだろう。危険、危険。
「リッチリスト」には番外コラムとして「世界の富豪50位」のリストが掲載されている。
やはり、アメリカ強し。ウォルマートのウォルトン一族を筆頭に上位4位を総なめし、上位20位の半分の国表示がアメリカとなっている。
そして、43位には唯一「日本」の富豪が登場する。ユニクロの柳井正氏(ファーストリテーリング会長兼社長)だ。資産138億ポンド。そう、お気づきだろうか。英国長者番付1位のレン・ブラヴァトニク氏(47位)よりも上位なのである。
英国の首都ロンドンには、世界中から様々な業種の金持ちが集結しているといわれるだけあって、「リッチリスト」は見応えがあると思いきや、なーんだ、日本の代表選手はその上をいっているのである。
なんだかちょっと自慢げな気分になったところで、人の財産眺めて楽しんでいる暇があったら仕事しましょ。
193位には資産5億8000万ポンドのこの女性が登場。「ハリー・ポッター」シリーズの著者、J・K・ローリングことジョアン・ローリング氏。ポール・スミス夫妻やベッカム夫妻の2倍の資産
あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員