17歳のレオンが見たロンドン・ファッションウィークFebruary 2023(若月美奈)

2023/03/16 06:00 更新


今回のファッションウィークを故ヴィヴィアン・ウエストウッドと彼女の功績に捧げます。

23〜24年秋冬ロンドン・コレクションは主催者によるそんなメッセージと共に幕開けた。昨年末に他界した英国を代表するデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッド。実質的なメイン会場となっている新人支援プロジェクト「ニュージェン」のショー会場入り口では、彼女のインタビュー映像が流されていた。

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前日には市内の教会で追悼セレモニーも行われ、アナ・ウィンター米ヴォーグ編集長をはじめ、通常ならミラノ入りする前に後半だけロンドンに立ち寄る著名ジャーナリストが早々とロンドン入りしていた。

となると、かなり盛り上がると思いきや、ショーの数も来場者も予想を下回った印象は拭えない。昨今の社会状況を反映して、中堅ブランドの参加が減ったことがその一因。結果、会場費をはじめ様々な援助が受けられるニュージェンに選ばれて新作を発表する若手と、バーバリー、J W アンダーソン、シモーン・ロシャなどの必見有力ブランドによる二極化が進んだ。

5回目のコレクション取材を終えたレオンは29のショーとプレゼンをカバーした。といっても、大半の新人組からはシートナンバー付きのインビテーションが届いたものの、必見有力組は全滅。J Wアンダーソンだけ入り口で頼み込んで入場できたが、それ以外は他の人に紛れてこっそり入場というわけにもいかなかった。

回を重ねるごとにPR担当者とも顔見知りになり、招待されているイベントには顔パスで先に入れてもらえるようになった反面、インビテーションのないショーへは入れない。天才的な身のこなしで、絶対入れないと思われるショーにもするりと入場していた15歳の頃が懐かしい。

有力ブランドのショーは多くの媒体で紹介されている。でも、ロンドン・コレクションの醍醐味は次世代を牽引するデザイナーとの初期段階での出会いにある。Z世代が見て感じた若手のクリエイションと隠れ必見ブランドにフォーカスして今シーズンを振り返る。

レオンの過去のコレクション体験記はこちらから。

――ずばり今回一番良かったショーは何?

SSデイリーとオマール・アフリディ。JWアンダーソンも良かった。

――え、オマール・アフリディは意外。というか私は見てないので何も言えないけれど。このブランドについては後ほどゆっくり聞くとして、まずはSSデイリーについて。私的にもベスト3に入るいいコレクションだった。

これまで芝居仕立てのショーで注目されたけれど、今回は淡々と服を見せた。その服1着1着がとても強かった。冒頭のおじさんによる本の朗読はドラマチックだったけれど、ショーが始まったら服でストーリーを語っていた。

――テーマは海でセーラースタイルがたくさん登場したけれど、ボロボロのように再構築されたシャツなどがあって、海で遭難した人を思い起こさせた。そうしたら、ショーの最中には平坦な海の映像が流れていた正面の大画面が、ショーが終わると海の中から人の手が飛び出している映像に変わり、やっぱりそうだよねって思った。

おじさんの海にまつわる朗読は最後に「Wake Up」って言って終わった。その後すぐにショーが始まり、夢の世界のようなものを感じた。ウォータープルーフのジャケットなどユーティリティなアイテムにスパンコールを散らしたショーツを合わせたりしているのを見て、若い人が過去から受け継いだ遺産を自分なりに着こなしているように思った。お腹にお皿がついたルックがあったけれど、それは家で代々受け継がれていたものの1つ。

――リリースによるとコレクションの出発点はヴィクトリア時代の英国の詩人、アルフレッド・テニスンの作品に着想を得た広大な海の世界を表現したケイト・ブッシュの曲らしい。ショーでは彼女の曲が流れていた。そして同時に海軍にいたというお祖父さんの思い出がオーバーラップしているとも。

なるほど。やはり代々受け継がれたものを若い人の視点で今の時代に甦らせたコレクション。そこにプライベートな思い出も込められていたというわけだね。オーバーサイズの服が多いけれど、からだから落ちかけたような動きがある。中でも一番好きだったのは襟元が割れたセーター。どこか古着的というか、おじいさんから受け継いだような年代を感じさせるデザインがいい。

SSデイリー

――そしてこのデザイナーには毎シーズン、テーマとなる物語や服自体にクイアの要素が含まれる。デザイナー自身も性的マイノリティーだけれど、今回朗読したおじさんは誰だか知っている?

有名な俳優さんでしょ。

――80年代にゲイだっていうことをカミングアウトし、現在もLGBTの権利保護に力を入れる俳優のイアン・マッケラン。

ブルーが全面に出ていたコレクションだったけれど、その色使いもとても今の気分だった。

――SSデイリーはニュージェン受賞者23人の1人で、そういう意味ではまだ新人だけれど、LVMHプライズなども受賞して、他の受賞者よりは一歩先に進んでいる感じ。そうしてみるともう1人、同じように一歩進んでいるのがネンシ・ドジャカ。レオンは今回初めてネンシのショーを見たわけだけど、どう思った?

これまでも写真や映像で見ていたけれど、あまり変わらない。売れそうだけど感動しなかった。黒を基調にポピーのアクセントを加えたりして、とてもフェミニンなデザイン。完成度も高く、女性には訴えるものがあるのかもしれないけれど・・・

――そういえば、JWアンダーソンも少し期待外れだったって言っていたけれど、良かったショーで名前が上がった。

今回はデザイナー自身の過去を見つめ、それをシンプルに再現していた。自身がデザインしたもののメモリー、その姿。つまり記憶にあるものの輪郭だからものすごくミニマルでドリーミー。ふわふわのカンガルーポケットのチューブトップって以前にも出していた? こんなにミニマルだった?

――うん、ミニマルだった。このデザイナーは元々ものすごくミニマルだった。その後、だんだん賑やかになっていったので、今回のショーは過去のものをミニマルに再現したと書いているコレクション評もあるけれど、15年前のデビューからずっと見続けていると今回再現したアイテムは当時の方がミニマルだったものもある。今回鮮やかな色をのせたけれど、当時は白一色といった具合にね。

JWアンダーソン

こんな言い方していいかどうかわからないけれど、1点1点を見るととてもデッドだと思った。悪い意味のデッドではなく、いい意味でね。新しいものとして見せた当時は生きていたというか動いていたけれど、今はアルバムの中に閉じ込められたデザインとでもいうのか。

――言いたいことはわかる。デッドというか止まっているんだよね。過去のものとして記号化されているデザインの再現。そのデザインを発表した当時はその背後にフィロソフィーのようなものがあって出していたのだけれど、今は単なるデザイン。

思い出はコアな部分だけ残る。でも、僕は過去のコレクションをそこまで分かっていないのでなんとも言えない。

――私的には過去に見たものがどんどん出てきて、その時のコレクションや会場風景まで思い出して懐かしかった。過去のコレクションを知らない目で見て、全体的にはどうだった?

ちょっと弱かった。静物的な弱さ。マイケル・クラークのアーカイブとのコラボレーションもあったけれどそれも同じ。でも、それはジョナサンが狙ってやっているのだと思う。前回のショーがものすごくパワフルだったから、このショーを見た瞬間すごく戸惑った。でも、「J Wアンダーソンって何?」ということを自ら振り返るというあまり例のないコレクションとしては面白かった。いいコレクションだった。

――それが期待外れだったけれど良かったということね。

少し時間をおいて良さがどんどん伝わってきた。一方、見た瞬間から期待通りで感激したのは、ナターシャ・ジンコとディララ・フィンディコグル。

――ではいつも通りスケジュール順に、今名前があがったブランドや若手のショーを振り返ってみよう。

2月17日(金曜日)

10:00 シネイド・オドワイヤー

Photo: Jessica Mahaffey

――ニュージェン会場での最初のショー。見るのは2回目だけれどどうだった?

今回とても強かった。このブランドはプラスサイズの人や車椅子の人、さまざまな年齢の人など誰もが着られるインクルーシブなコレクション。でも、それで終わっていない。とてもストーリーのある服だった。ヒストリカルな服と現代的な若々しさという時代の交錯、マスキュリンとフェミニンの融合、落ち着いたダークカラーと鮮やかなネオンの対比といった、1つのルックの中に両極なものを取り入れて、磁石のようにそれらが引き付けあうテンションでタイトルにもなっている「欲望」を表現していた。

――前回より良かった?

良かった。「欲望」を表現するというのはある意味あまりいいことではない。でも、それをとてもスマートに見せていた。

12:00 ファッション・イースト

――その後ボラ・アクスを見て、若手の合同ショー、ファッション・イーストへ。

3ブランドの合同ショーだからルック数も少なく、それぞれ音楽は違ったけれど、同じシンプルなランウエイをモデルが歩くショー。でもその分、服のテクニックがフォーカスされていた。中でも最初に見せたスタンディング・グランドが好きだった。

――アイルランド出身のマイケル・スチュワートがデザインするブランドね。

バッドを入れてボディーラインを形成していたけれど、ふわふわっとした感じがあってすごく触りたくなった。2人目の服とバッグが一緒になったようなヨハナ・パルブも面白かった。さまざまな着方ができる服。3人目のキャロライン・ヴィットはメタル使いが特徴だけれど、ドレス自体はとてもオーガニック。

――3人ともとてもボディーコンシャスな服。ヨハナはそこまでじゃないけれど。

ヨハナもバッグがボディーに一体化していてボディーコンシャスだと思う。キャロラインはボディーとドレスの共存が絶妙だと思った。

――そう、この服って着ないと形にならない。ハンガーにかかっていてもメタルが重くて垂れ下がってしまったりして服の形をしていないけれど、着ることによって服になるという角度方見てもボディーコンシャスな服なのかもしれない。

13:00 ディ・ペツァ

Photo: Shaun James Cox

――こちらはデビューショー。ファッション・イーストの後にシャトルバスを見失ってしまい、その時にはもうショーの開始時間ギリギリになっていた。私は諦めたけど、レオンは地下鉄に乗って走って会場に向かった。

間に合って良かった。とても面白いショーだった。自分が男だからよくわからない部分もあるけれど、女性のからだを祝福しているコレクションで、最初に妊婦が登場した。ドレスはとてもオーガニック。ローマの神々の服のようなドレープを駆使したデザイン。服もショーの演出もこの世のものではないというか、神がかっていた。コレクション取材ってバタバタしているけれど、なんかとても気持ちが落ち着くマジカルなショーだった。

19:00 コーナー・アイブス


――その後、エドワード・クラッチリーのショー、靴のアンクタ・サルカ、シネイド・ゴーリー、マティ・ボヴァンのプレゼンを見て、昨年のデビューショーから1年ぶりに2度目のショーを見せたコーナー・アイブスで再びニュージェン会場に戻った。

すごく良かった。

――今回も1体1体にタイトルをつけて、さまざまな女性をイメージしたコレクションだったけれど、中でも水色のルックが好きだって言っていたよね。

このルックってとてもセブンティーズ。とてもオプティミスティックな時代で、それが心地よかった。

――今回のタイトルである「マグノリア」は1999年に公開されたアメリカ映画なのだけど、それはどちらかというとフィロソフィー的にそれを引用している。それよりも、リリースを見てなるほどと思ったのは、10歳の時にお母さんの雑誌で見た初めてのファッションショーの写真について。それはニコラ・ジェスキエールによるバレンシアガの06〜07年秋冬コレクションで、その時に今まで経験したことのないような感動を覚えたそう。商業化されたファッションではなく、そんなふうに人の心に響くマニアックな服を作りたいという気持ちでコレクションを作ったという話。

わかる。旅行雑誌を見て、いいなあ、美しいなあ、旅行したいなあと思うのと同様に、このコレクションからは服そのものだけでなく、ファッションの素晴らしさが伝わってくる。綺麗で色使いもいい。

――シルエットやディテールがどうのこうのではなく、ファッションっていいなあと思えたということは、デザイナーが伝えたいことがちゃんと伝わったということだね。今、このコレクションはとてもセブンティーズだと言っていたけれど、実際に一体一体につけられたタイトルや解説を読むと、ほとんどが2000年前後の女優やモデルのスタイルになっている。その当時に70年代が注目され、それを再現しているということで、直接70年代を振り返っているわけではないのかもしれない。

そうかもしれない。でも2000年前後もミレニアムで70年代同様にオプティミスティックな気分が盛り上がり、そんな共通点がある。

20:00 ナターシャ・ジンコ


――そして初日の最後はナターシャ・ジンコ。ロンドン拠点に活躍しているウクライナ出身の彼女のコレクションは、以前何回か見たけれど今回は久しぶり。間が開き過ぎて以前との比較ができないのだけれど、ずいぶんモード寄りにマニアックになった感じがする。

ショーはアンドリュー・テイトの声で始まった。彼はティックトックなどで話題を呼んでいるインフルエンサーの悪人。金持ちであることを見せびらかせたり、女は家にいて子供を育てていればいいみたいな女性蔑視なことばかり言っている。でも、それが家に引きこもってゲームしているような今時の若い男の子たちを刺激する。言っていることは悪いことなのだけれど、それによって男の子のやる気を促す。まさに宗教のようなカルトな世界。アンドリューは今、人身売買容疑で逮捕されルーマニアで拘束されている。

――この人、元キックボクサーで億万長者って言われているよね。でもなんでナターシャは彼の声でショーをスタートしたのかな。

彼の声の後、ドシャーンとパワフルな女性が登場した。肩が大きくて裁判で戦っているようなイメージの服。

――アンドリューに対して戦いを挑むような女性の服っていうこと?

アンドリューだけでなく、世の中にはびこる男尊女卑な考えに対する抗議ってことかな。ボディにはハルクを思わせる緑色のペイントがあったり、フロントにはシックスパックがキルティングやペイントで描かれている。戦ってボロボロになったような服、歪んでしまったメガネもある。スーパーヒーローがバトルしているような豪快なコレクション。すごく好きだった。

2月18日(土曜日)

13:00 チェット・ロー

Photo: Haydon Perrior

――2日目、私は10時のアルワリアから見たけれど、レオンとはチェット・ローで合流。正直あまり期待していなかったのだけれど、良かったよね。

変わった。すごく良くなった。突起に覆われた編み地というテキスタイルがシグネチャーだけれど、今回はシルエットなども綺麗にデザインされていて、いいコレクションに仕上がっていた。色の刺し方は、頭にライトがついた深海魚を思わせる。

――チョウチンアンコウかな。

暗い時代に光を灯すようなデザイン。コーナ・アイブスやナターシャ・ジンコなどにも通じる自ら光を当てるデザインは今シーズン共通する傾向のようにも思う。

21:30 オマール・アフリディ


――その後デビッド・コーマは見たものの、モリー・ゴダードやロクサンダ、シモーン・ロシャ、リチャード・クインといったインビテーションをもらえなかった有力ブランドが続き、きちんと取材したのは夜9時半からのオマール・アフリディ。オマールはアフガニスタン出身だけれど、実際にデザインをしているのは市森天颯と菊田潤の2人。以前メンズファッションウィークの展示会やプレゼンで見せていたけれど、今回が初めてのショーだった。

今回、SSデイリーと1、2を争うぐらいに好きだった。すごくいいショー。

――デザイナーには失礼だけれど、レオンの評価がそこまで高いことには本当にびっくり。タイトルはプリミティブ・テックとあるけれど、どんなイメージだったの?

フォレストレイブ。イリーガルなテクノのレイブパーティーを森の中でやるイメージ。今回のショー会場だったサウスバンクトンネルはロックダウン中やその直後に若い子が集まってドラッグなどやっていた場所。13歳とかものすごく若い子が集まるアンダーグラウンドなスポットだった。森ってとてもナチュラルな場所、そこでイリーガルなことをする。中世のようなイメージもある綺麗な仕立ての服に、ケミカルな色と光沢のアイテムを合わせる。そのハーモニーに共通のものを感じる。モダンロビンフッドっていう感じかな。

――写真を見る限り、以前はもっとラスティックなイメージがあったので今回のコレクションは意外だった。ショーの後、デザイナーに会ったんだよね。何聞いたの?

何も聞けず、ただただ素晴らしいショーだったって伝えた。ショーの前にリリース見た時はプリミティブ・テックってどういうことって思ったけれど、ショーを見たら全部わかっちゃった。たとえば、ロビンフッドというか騎士のようなイメージの服があるけれど、騎士が戦うのとレイブで踊るのには、身体を動かすという共通の要素がある。ロビンフッドは社会から孤立して森の中で暮らしている、フォレストレイブはリーガルな場所ではなくイリーガルに行う。そうしたアウトローの共通点を感じたから、モダンロビンフッドだと思ったのだと思う。

――具体的にはどんな服?

大きなボケットがあったりするユーティリティーアイテム。レイブに行くのに身の回りのものを入れるための大きなバッグも持っている。ショーでは気が付かなかったけれど、写真を見るとパンツの裾をソックスに入れて、森の中で動きやすいようになっているデザインもある。

――とても計算されたコレクション。日本人がデザインしているという感じはした?

した。とても綺麗にできていたから。

――事前にデザイナーは日本人だと伝えたけれど、それを知らなくても日本人の服だと思った?

うーん、難しい。でも、ショー会場では僕の後ろにいた人はみんな日本人で、日本語喋っていて不思議だった。日本人のデザインって控えめでありながら強いものが多い。そうした美意識があるから、ヨーロッパや中国のように著名なラグジュアリーブランドばかりではなく、それほど知られていないブランドの服が売れる。侘び寂びというのかな。でも僕は侘び寂びの意味をちゃんと理解していないかもしれないのでなんとも言えないけれど。

――西欧的な「動」ではなく、日本的な「静」の美意識ということ? でも、このコレクションはそれとは違うよね。

写真で見ると賑やかなコレクションに思えるけれど、実際に見るととてもシンプルだった。ラフ・シモンズに通じるシンプルだけど強い服。日本の「静」に通じるコレクションだったと思う。そんな強さに惹かれてすごく感動した。今再びデザイナーにあったら何を聞くか考えてみても、思い当たらない。

――服ですべてが伝わったというのは、素晴らしいことだね。

2月19日(日曜日)

10:00 パオロ・カルザナ


――前回プレゼンでデビューして今回初めてのショー。

透ける素材を使ってオブジェのようなものをつけたり、明確な世界観が伝わるコレクションだった。

――前回この人の服はシャツ、ジャケット、コートといったように一点一点がプロダクトとしてデザインされているというようなこと言っていたよね。プレゼンじゃなくてショーで見てみたいとも。

ショーでより世界観が伝わって良かった。とてもデリケイトで綺麗なコレクション。プレスリリースも詩だったりして、しわしわの優しい服が登場した。男同士のラブストーリーを描いていて、スタイルは違うけれどSSデイリーと似たものを感じる。

――新しいと思った?

うーん、どうかな。服のつくり方はドーバーストリートマーケットで売っているポール・ハーデンに似ていると思った。

――繊研新聞の小笠原さんもコレクション評でポール・ハーデンに言及していた

でも、同じしわしわでもポールの服はエイジド。土の香りのするアンティークな美しさを追求しているけれど、パオロはそれとは違うロマンチックな服。だから新しい。

14:00 フェベン

モデルで登場したジョルジャ・スミス。Photo: Shaun James Cox

――こちらもニュージェン会場での2シーズン目のショー。

見た時は知らなかったけれど、ミュージシャンのジョルジャ・スミスがモデルで出ていた。僕がファッションショー回っているって知っている友人から、ジョルジャが出ていたでしょって言われて知った。若い子に人気。

――フェベンってはっきり言って私たちが好きなタイプのコレクションじゃなく、繊研新聞の速報でもスルーしてしまった。

僕はストーリーがあるショーに惹かれるけれど、このコレクションはそれとは違ってテキスタイルなどにもこだわっていて1点1点服として見ると悪くないように思う。

――絞り、大胆なプリント、ビーズのドレスといった具合に、2シーズン続けて見るととりとめのないように思えるコレクションの中に、しっかりシグネチャーピースがあることもわかった。

その後、この日はネンシ・ドジャカやSSデイリーなどを見て終了。

2月20日(月曜日)

9:00 アサイ

――4年ぶりのショー。もう随分前にデビューしていたのでそろそろ中堅かなと思っていたけれど、休止期間があったからまだニュージェン。デザイナーは中国人のア・サイ・タ。

中国の歴史や戦争、戦いといったことがテーマに織り込まれたドラマティックなコレクションだった。というか人生は戦いであるといったような強かな女性像を打ち出していた。

――で、服としてはどうだったの。

うーん。感動はしなかったけれど、悪くはなかった。朝9時からドーンとこんなパワフルなショーを見て目が覚めた。

――以前のアサイを知っているけれど、パワーアップしたというか服としての完成度が高まったように思う。

12:00 ディララ・フィンディコグル


――その後、オフスケジュールでショーをしたノキを見て、ディララ・フィンディコグルへと向かった。前回久しぶりにショーをしたけれど見損ねたので今回はとても期待していた。

すごく感激した。とても美しかった。期待を裏切らない、思っていた通りのショーだった。

――でもね、正直なことを言うと、ランジェリースタイルの服を着たモデルがからだをくねらせながら時にはポーズをとって自然光が差し込む教会の中をゆっくり歩くショーを見ていた時は、なんて美しいんだろうと思ったのだけれど、後から写真で見るとショーほどの良さが伝わってこない。あの動きに騙された部分もあるのかなあと思ったりする。

このコレクションって正面から見ると平坦なイメージの服だけれど、レイヤーがあったり細いチェーンが揺れるといった具合に動くと良さがわかる服なんだと思う。でも、確かに実際に見た時はすごく強かったのだけれど、写真だとそれが感じられないね。服って自分を素敵に見せるために着るものだけれど、この服はそれとは違う。なんかちょっと違う美しさがある服。痛みをたくさん感じて、その後に自分自身を見つけ出すといったような世界の服。わかる?

――わからない。でも、リリースにも女性が女性のボディーを称賛するといったようなことが書かれていた。男性のためにではなく。このデザイナーの服って以前はものすごく重かった。鎧のような服。でも今回はめちゃくちゃ軽くなってびっくりした。退廃的なイメージや一点一点丁寧につくっている姿勢は変わらないのだけれど。

天使のような軽さかな。人生って痛みがなければつまらない人になる。でもたくさん辛いことなどを経験したからこそ、美しく自由になれるみたいな感じ。ちょっとマックイーンの世界観に似ているかも。リリースではトルコの地震のこともたくさん綴っていたけれど、それとも通じるものを感じた。全てを失ってしまうことは本当に辛いことだけど、その後には何にも束縛されない自由がある。抜けちゃったって感覚かな。肌もあらわに露出して、とても自由な服。

――そういえば、このデザイナーはトルコ出身。

全体的に軽い服だったけれど、最後に登場したナイフとフォークをぎっしり貼り付けたドレスは迫力あった。これは何を意味しているのだろう。「Eat me」、いや「Eat myself」かな。花が全面についた服はウェディングのようにも見えたけれど、死んだ花に見える。これはどういうこと? 僕にとってのいいショーは人生ってなんだろうって考えさせられるようなショー。そういう意味でこのショーはとても素晴らしかった。

18:00 セントラル・セントマーチンMAショー

チエ・カヤの作品

――そして、スーザン・ファン、サウル・ナッシュを見てセントマーチンの卒業ショー。

1年前のショーは演出がぐちゅぐちゅでカオス、どこからどこまでが1人の作品なのかわからなかったりしたけれど、今回は1人ずつしっかり見せた。それぞれの学生の個性や服のテクニックもよくわかったいいショーだった。

――今回は久しぶりに日本人の卒業生がいた。カヤチエさん。カナダ・グースによるヒューマネーチャーアワードを受賞した。

前回のセントマーチンのショーは荒削りで若い印象を受けたけれど、今回はみんな大人っぽく洗練された。

――ファッション・イーストもそうだけど、今の若い人の服ってとてもエレガントな方向に向いている。

確かにそう。前回の卒業生はロックダウンであまり学校に行っていなかったけれど、今年の卒業生は先生と向かい合ってちゃんと学べた。その違いは大きいと思う。

――その後、モンクレール・ジーニアスのイベントに行った。服を見せるためのものではなく、世界観を紹介する体験イベントで、楽しかった。

アートギャラリーで体験するようなイベント。アレシア・キーズのライブもあった。でも一番面白かったのは帰りがけ。ライブが終わって出口のそばにいたら、リック・オウエンスやファレル・ウィリアムスなどのセレブリティが続々と目の前を通って行ったのにはびっくりした。

――その時点でもう23時を過ぎていた。私は原稿があるので直帰したけれど、レオンはセレクトショップ、マシンAの10周年記念パーティーに行った。

すごく楽しかった。入り口にたくさんの人が並んでいて入れないかと思っていたら、PRのブロンドの女性が僕を見つけて入れてくれた。

――あ、あのPRエージェントの社長ね。顔パス効いてラッキー。

2月21日(火曜日)

10:00 ウクラニアン・ファッション・ウィーク

パスカルのコレクション。Photo: Jessica Mahaffey

――最終日の朝はウクライナの3ブランドの合同ショー。母国でのファッションウィーク開催が不可能な状況になってしまったので、ロンドン・ファッションウィークと組み、ロンドンでショーを行ったもの。

どのブランドもとてもオプティミスティックだった。特にチョウをモチーフにしていたパスカルは、戦争中なのにこんなに明るいコレクションが作れるんだって感動した。チョウがこれでもかとばかりに登場する。子供が作った紙細工のようなチョウ。どんな状況下でも、人々は子供のようにオプティミスティックにいたいんだというメッセージを受け止めた。

――その後、私はチュウ・ライジングのショーへ行ったけれど、レオンは一度学校へ。3時からのラウガセンで再び合流。インスタレーションとメタバース、そしてキャットウォークではなくウォーキング・パフォーマンスと呼んでいたフロアショーを見て今シーズンの取材終了。最終日ってあっけないようだけど、いい感じ。前日まで一緒だった人たちも早々とミラノに行ってしまって時間の流れが一気に遅くなる。祭りの後って感じかな。

そう、とてもピースフルでこの感覚いいよね。今回は全体的に期待以上のショーが多くてとても強いシーズンだった。僕がショーを見始めた頃は15歳だったけれど、来年は18歳になる。もう若くない。ファッションウィークを通じて何ができるのか、次回に向けて考えてみたい。

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あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は30ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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