22~23年秋冬パリ・コレクション ブランドのオリジンをモダンに

2022/03/07 11:00 更新


 22~23年秋冬パリ・コレクションは、それぞれのデザイナーのオリジンを背景にした新作が充実した。クチュールテクニック、フューチャーリスティックなムード、ロマンティックなイメージなど、ブランドのオリジナリティーをモダンに解釈したラインが広がった。

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 サンローラン・オクロック(時)、再びエッフェル塔が輝き始めた。今回もエッフェル塔も真正面に望む、トロカデロに特設会場を設けたサンローラン。会場に到着するとすでにセレブ待ちをする若いファンたちに取り囲まれていた。レトロモダンなサロンのようなしつらえにはちょっとした仕掛けがあった。ショーが始まると壁が開き、ランウェーを歩くモデルと共にエッフェル塔が一望できるようになる。

 距離的に到底見えるはずはないのだが、ご開帳と同時に会場を取り囲んだファンたちの絶叫がこだました。以前にそんな演出があった記憶がないのだが、今回は壁が開いた時とフィナーレに毎時00分だけに輝くはずのエッフェル塔のキラキラが発動。パリの老舗メゾンの力を見せつけた。

 回を追うごとにアンソニー・バカレロのデザイン力がどんどん安定しているように感じる。22年秋冬はこれまでで最も上品なコレクションとなった。肩が全てを物語る。スクエアやオーバーサイズのショルダーに細長いボディー、80年代にメゾンの創設者イヴ・サンローランが生み出したシルエットを現代風にアレンジ。膝下丈のレザーのバイカージャケットやダブルのコートの下から、透け感のあるチュールや軽やかなサテンのマキシスカート、ドレスがマーメイドシルエットのように揺らめく。

 バイアスカットのドレスとともに印象的だったのが、かつてのグラマーを思わせるボリューミーなフェイクファーのアウター。そして最後はメゾンのアイコン、スモーキングのバリエーションで幕を閉じた。

サンローラン
サンローラン

 おしゃれなファンたちがアクネ・ストゥディオズを取り囲んだ。60~70年代のサロンのようなソファ、長い1日の後半ということもありその柔らかさに居心地良くなってしまった。そんな心地良さはコレクションにも見受けられた。布団をつなぎ合わせたかのようなガウンコートやオーバーサイズのシャツジャケット。色あせた壁紙プリントの柄を縁取るようなキルティングが施されたトレンチコートもある。クロップト丈のセーターやサイドに深いスリットの入ったロングのワンピース、スカートがドラマチックに広がったボールガウンまで、ボロボロニットでデカダンな雰囲気に仕上げた。デニムブランドとしてスタートしたヘリテージを思うかのように、同じスタイルのボールガウンをはじめ、ワイドパンツやボディースーツをシェイドの違うデニムのパッチワークで見せる。おばあちゃんのフリンジショールを重ねたようなロングドレスやエキストラロングスリーブのスウェットシャツ、軽やかな素材の細長いスカーフやベルトパーツ、パンデミックで鈍った体に歩くこと、動くことの楽しさを思い起こさせてもくれた。

アクネ・ストゥディオズ

(ライター・益井祐)

 セシリー・バンセンが初のランウェーショーで見せた。コレクションの背景にあるのは、デンマークの詩人トーヴ・ディトレフセンの「ナイト・ワンダリング」という詩。バンセン本人がティーンエージャーだった頃に読んだディトレフセンの詩に、コレクションを重ね合わせた。

 詩の朗読で始まったショーは、バンセンらしいロマンティックなムードが漂う。ピンク、白、グリーン、ミントブルーといった優しいニュアンスカラーと黒やレッドの強い色のトーン・オン・トーンのスタイルを揃えた。ふわふわと柔らかなシルエットを描くドレスは、スモッキングや膨れジャカードの透明感ある素材使い。そこにアブストラクトなボリュームをのせたり、リボンや花びらの装飾を飾ったり。小さな襟のテーラードジャケットはスモッキングでぎゅっとウエストをシェイプして同色のピンクのドレスに重ねる。ビュスティエのような切り替えディテールを入れたドレスは、パッデッドのボリュームやピュアな白で仕立てたせいか、官能的ではなくイノセントな雰囲気を作る。

セシリー・バンセン

(小笠原拓郎)

 コシェはパリ市内のホテルの広間で、ショーを行った。披露したのは、いつも以上にクチュールの要素を取り入れたデイリースタイル。デザイナーのクリステル・コシェは、艶やかなハレの装いを重視しながら、いかに日常を感じさせることができるかを改めて追求した。ケーブル編みのボリュームスリーブセーターには、金魚の尾ひれのようなラッフルの膨れ織りスカート。ブルゾンには大小のコサージュがびっしりと飾られ、デニム風のパンツはシフォンのハンカチーフヘムが揺れる。ラフだけど華やかでエレガント。そのバランスを探っているようだ。エレガントなスタイルのスパイスになっているのは、フェティッシュなエッセンス。エナメルのロンググローブ、複雑な編み模様の網タイツ、レースのドレスには羽根の形のレザーをつなげたハーネスを重ねる。

コシェ

コシェ

 クレージュの会場の中心に敷き詰められたのは、シルバーの物体。よく見ると磨き上げられた空き缶だと分かる。サステイナブル(持続可能)な意味合いを込めたかどうか、ひと際強い光を放つ会場に、引き続きブランドのDNAをブラッシュアップしたミニスタイルが登場した。ミニマルでコンパクト、どことなく未来的だけど今の日常にフィットする。そんなスタイルが今シーズンもブレることなく描かれている。袖が後ろに四角く張り出した独特なフォルムのウールコートからショーは始まった。前から見るとシンプルだけど、後ろから見ると背中を四角い布が覆っている。超ミニ丈のスカートとニーハイブーツの組み合わせは、ブランドを象徴するスタイル。今シーズンは、タイトなセーターの脇や喉元に入れたダイヤ状にカットアウトがポイント。シグネチャー素材のエナメルの存在感もいつも以上に大きい。コンパクトなトップにエナメルのワイドパンツ、タイトなキャミソールドレスなどが揃った。

クレージュ(写真=大原広和)

 ダウェイ モノトーンやワンカラーのスタイルに量感をプラス。クリーンな日常着を提案する。フーディーに合わせるのはキルティングのフレアスカートとシャツジャケット。ハンカチーフヘムがリズミカルな動きを作り、ニットの中の白シャツが全体を引き締める。手掛けるのは中国出身のダウェイ・スン。

ダウェイ

 キムヘキム 髪の毛で装飾するコンセプチュアルなコレクション。編み込んだ髪で造形したミニドレスに、カーリーヘアで覆ったミニ丈のセットアップ。長毛の犬のようなさらさらヘアをフリンジのように飾ったり、滑らかな毛の流れをプリントしたり。ヘアメイクするように遊び心あるモダンなスタイルに作る。

キムヘキム

(青木規子)

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