フェイラージャパンが販売する、ドイツの伝統工芸シュニール織りを生かしたファッションブランド「フェイラー」は、日本進出50周年を迎えた。同社はこの数年間にリブランディングを行い、30~40代のアーリーアダプターに向けた市場浸透が着実に進み、幅広い世代を対象にした顧客化が進展している。SNSマーケティングにも注力し、インスタグラムでの発信を強化してファンコミュニティーの拡充にも成功。フェイラーは、商品特徴である〝機能的価値と情緒的価値〟に〝社会的価値〟を付加し、「感性の駆動」を人々に届ける。
丁寧な暮らしに寄り添う
――今の経営環境をどう見ている。
大きい視点で見るとファッション業界は調整局面にあると言えます。ブランドやレーベルの過多や商品の供給過剰、サプライチェーンにおけるグローバリズムに対する反動でコロナ禍やロシア問題などのカントリーリスクに、いかに備えるかも考えなければならない。これらの調整局面のなかで、新しいビジネスの形が本当に見えてくるのはこれからだと思います。OMO(オンラインとオフラインの融合)などのビジネスモデルもまだまだ変化があるでしょう。
ファッションの役割にも変化が表れています。これまでは他者に見せるためのファッションであったのが、自分が大切にしている価値をファッションで表現する方向に進んでいる。2000~10年代と比べても現在は随分と様相が変わってきています。
その意味では、経営者も意識を変えなければならない。最終消費者、顧客視点を軸にした経営の在り方へと転換する時代にあります。そのためには、40歳前後の世代以下がビジネスのなかで責任をもって活躍できる組織作りが大事だと考えています。この年代は、ミレニアル世代の上の層と重なるところです。〝昭和〟につながるカルチャー感覚を持ちながらも染まりきっていない。調整局面後の社会や市場に対するイメージを具体的に想像できる人たちが、これからのビジネスを作っていくことが大事です。企業や組織としての過去の成功を捨てなければならない中で、新しい発想を発揮できる環境作りが必要だと考えています。
――新しいビジネスの形とは。
フェイラーが日本市場に進出して今年で50周年を迎えました。さらに100周年を迎えるためには時代変化に対応するビジネスモデルが不可欠になります。今はSNSを活用することで、購買に至っていない「認知」や「興味・関心」の段階にある消費者行動をデータベース化して、分析できる時代です。インスタグラムやツイッターを見てブランドサイトに入り、リアル店舗も体験してもらう。人々が日常生活で触れる雑誌や、期間限定店などを通じてタッチポイントを広げるなどして、デジタルツールと実店舗、ネットイベントやリアルイベントなどが、それぞれ連動しながらお客様を包み込んでいく。それによって、幅広い層のロイヤルカスタマーから支持されるブランドに育てていきたいです。
――フェイラーの独自性とは。
機能的価値の上に情緒的価値を付加しているところです。また、フェイラーの商品自体が優れたコンテンツであると考えています。吸水速乾性があり、使うほどに肌になじみ、長持ちする風合い。触れるだけで気持ちが和らぐ、柔らかで厚みのある質感などが顧客から支持されています。
また、美しい発色と、使用する生地のデザインに文化やストーリーが描かれているのも特徴です。フェイラーでは一つの柄に最大18色まで使用できるので、繊細なデザインや微妙なグラデーションなど、色鮮やかで豊かな表現が可能です。これにより、ハンカチやタオル、インテリアクロスをはじめ、ファッション性の高いバッグやクッション、エプロン、ポーチなどの小物雑貨までの多彩な品揃えが可能となっており、幅広い世代に愛されるブランドとなっています。
1928年に現在のチェコ(当時のドイツ領)で織物工房をスタートさせたエルンスト・フェイラー氏が、独ババリヤ地方の伝統工芸織物シュニール織りに着想を得て、創意工夫を重ねながら20年後の1948年に独・ホーエンベルクで独自の技法による織物を完成させてフェイラーを創業しました。現在も製造工程に係る職人の匠の技と、カスタマイズされたシュニール織機の独自性が発揮されています。
四季折々のコンテンツ届ける
――ブランドの価値をどう伝えるか。
フェイラーを通じて顧客にいかに楽しんでいただくかが私たちの役割だと考えます。今はメディアが〝民主化〟して、マスメディアを通さなくても各人が情報発信できるようになっています。人々はスマートフォンなどのモバイルを通じて情報や娯楽を享受しています。当社においても消費者に向けて、いかに強いコンテンツを発信し、メディアになっていくかが重要になっています。そのためには、お客様に寄り添うことが非常に大事だと考えます。
フェイラーのファンの方々に「生活のなかでどんなことを大事にしていますか」と尋ねると、「丁寧な暮らしを楽しみたい」とお答えいただくことが多いのです。つまり季節折々の多彩な催しや、楽しみを大切にしながら生活を充実していくことを大事にされているのです。私たちの役割は商品を通じて、それらを豊かに感じていただくことです。フェイラーでは、桜やアジサイなど季節ごとに咲く花や、クリスマス、「母の日」などのイベントに合わせた柄の商品を揃えたり、最近では3月8日の「国際女性デー」に向けて2月初旬にミモザをモチーフにしたハンカチを店頭で販売しました。忙しい生活のなかで季節を象徴する物を携えることで、丁寧な生活を感じることができる。ここにこだわりを持った商品を提供していきたいのです。
――SNS活用が重要性を増している。
この間、インスタグラムによるマーケティングを強化し、17年度以降の4年間でフォロワー数が12倍となり12万5000人を超えました。直近の1年間では58%増の4.5万人の増加となっています。SNSを通じた顧客同士の交流も活発化しています。
これらはブランドのファンの自発的な情報発信によるところが大きいです。具体的な事例を挙げますと、フェイラーの人気定番柄で、ドイツの野花や小鳥、チョウなどをモチーフにデザインした「ハイジ」シリーズがあり、この商品に合わせて、8月12日を語呂合わせで「ハイジ(812)の日」にしようと、顧客の方々が、17年にSNSを通じて呼びかけて拡散したことで、大きな反響を呼びました。そして18、19年のコロナ禍前にはファンパーティーを開催し、多くの方々に来ていただきました。
これが起点となって、コロナ禍の最中にあってもSNSによって交流の輪がさらに広がっていきました。20年にはネット上のズームミーティングを活用して約130人の顧客の方々と商品企画会議を開き、そこでの意見を反映した商品を、ハイジの日に向け21年7月から販売し大人気となりました。
フェイラーの年代別客層にも大きな変化が表れています。15年には60代以上が顧客層の5割以上を占めていました。しかし、22年には30~50代が4分の3を占める非常にバランスの取れた構成になってきました。今後は30~40代の顧客が年齢を重ねてもフェイラーを楽しめる状態を作り上げていくことが重要になっています。
――ブランドを時代変化に対応させる。
今年で日本進出50周年を迎えたフェイラーですが、今後の市場や社会の大きな変化に対応し、次の50年に向けた100年ブランドへとアップデートしなければなりません。そのためには従来の機能的価値と情緒的価値に加えて、社会的価値が必要だと考えます。フェイラーのブランドとしての本質的価値を追求するために私たちは、日本国内でフェイラー事業を始めた山川和子さんにお話しを聞きに行き、数多くの顧客の方々にもインタビューをしました。また、社会はこれからどう変化するのかも自社独自でリサーチしました。その結果、社会の人々が、日々の生活を丁寧に生き生きと過ごすためには、感性の駆動が大事であり、そのための商品やコンテンツを提供することが当社の社会的使命であるとの結論に至りました。
時代の流れは早く、毎日は忙しく過ぎ去っていきます。そんな中で心の潤いをなくしていくと、感情は細り、感覚は鈍っていきます。フェイラーはこれからも人々の傍らにいながら、感情と感性を呼び覚まし、動かしていきたいです。
■フェイラージャパン
18年9月設立。主な事業内容はドイツの高級織物ブランド「フェイラー」の輸入・企画・販売。住友商事100%子会社。72年にモンリーブがドイツ・フェイラー社総輸入元として日本での販売開始。04年にモンリーブは住友商事グループになる。12年にはナラカミーチェと合併し、住商ブランドマネジメントに商号変更。18年、住商ブランドマネジメントはナラカミーチェ事業を夢展望に譲渡し、フェイラー事業を新設会社フェイラージャパンが承継し、現在に至る。現在の店舗数は国内に102、従業員数365人(パート・アルバイト含む、22年3月31日時点)。ドイツ・フェイラー社からのシュニール織りの年間輸入量はハンカチ・タオル185万枚、生地5万メートル。年商は22年3月期で売上高82億円と、創業以来最高の見込み。23年3月期は売上高で90億円を目指す。
《記者メモ》
リテールの現場で社員と共に汗をかきながら価値を生むことを好む。「ビジネスマンとして、社員と共に誇りを持って働ける会社組織を作りたい。そして、社会の要請に応える新たな価値を作り続けたい」と、丁寧ながら熱い気持ちをが伝わる。学生時代は体育会ラグビー部に所属。中学高校ではスタンドオフ、大学は「つらくて、痛いことだったら我慢できる」とナンバーエイト。いずれも司令塔の資質が求められるポジションだ。「社会がこれからどう変わっていくのか非常に興味がある。社会学全般に関心があります」と政治や経済、歴史、哲学、芸術など幅広く視野を広げる。愛読書は『戦略の本質』(野中郁次郎など共著)。何事も本質を見極めたくなるタイプ。「著書のなかに『戦略は階層化されている』との言葉がある。最終的に組織が目標にしているのは何か。それを行うために何をしなければならないのか。仕事に活用しています」。心に留める言葉は「自由と冒険」。多くの人の心に響く「感性の駆動」を広げる挑戦は続く。
(北川民夫)
(繊研新聞本紙22年4月8日付)