【パリ=松井孝予通信員】仏カジュアルレディス「ピンキー」が、ウルトラ・ファストファッションのEC最大手「シーイン」と合弁会社を設立した。仏アパレル産業界に衝撃を与えたこの提携は、元オーナーのミュリエ家による訴訟準備にまで発展している。
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ピンキーは23年、「オーシャン」や「デカトロン」を擁するミュリエ家から、トルコの衣料製造業イビスレル・テキスティルなどで構成するコンソーシアムに売却された。
発表された合弁会社は、シーインのサイト上で専用コレクションを展開する。ピンキーは28年までに年間売上高1億ユーロを目指し、全体の3分の1をオンラインで見込む。実店舗中心でネット比率が5%未満にとどまる弱点を補う狙いだ。
シーインにとっても、欧州で進めるマーケットプレイス化の1億4500万人の利用者を抱え、仏市場では大手SPA(製造小売業)をしのぐ規模に成長。物流網とオンデマンド生産を武器に、アマゾン型の成長モデルを強化している。
だがこの提携はただちに業界の反発を招いた。流通団体は「仏ブランドがシーインと組むのは戦略ではなく、受け入れがたい警告だ」と声明。仏流通連盟も「救済ではなく降伏だ」と厳しく批判し、「裏切り」とまで表現する経営者もいる。業界内では、集団訴訟の可能性まで言及されている。
さらに波紋を広げているのがミュリエ家の動きだ。売却時に1億4000万ユーロを拠出した資金が「本来の目的と異なる使途」として司法に訴える意向を表明。「シーインはフランスにおけるトロイの木馬」と厳しく批判し、政府に規制強化を求めている。
敵に依存することで生き延びようとする選択は、結果的に業界全体の持続性を脅かす。ピンキーの提携は、仏アパレルが抱える自滅的なジレンマを物語っている。