楽天ファッション・ウィーク22年春夏 奥行きを出すデジタルの表現力

2021/09/06 06:30 更新


 楽天ファッション・ウィーク22年春夏は、服を発表する形式でも多様性が増した。フィジカルであってもデジタルツールを取り入れてユニークな演出がされている。デジタル発表では、映像を通じてでも、シルエットや印象を際立たせる表現方法に工夫が凝らされる。

(写真=ヨシオクボは加茂ヒロユキ、UCFは堀内智博)

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〈フィジカル〉

 ヨシオクボ(久保嘉男)は、新しく改装したショールームで新作を披露した。密を避けて座った観客たちにはヘッドホンが配られ、それで音を聞きながらショーを見る。6月のパリ・メンズでデジタル配信したコレクションを女性モデルに着させた。それは、和の気分を取り入れながらユーティリティースタイルへとデザインを展開していくもの。キモノコート、作務衣のようなトップ、そんな和のアイテムが、メッシュやパイピングのスポーティーなアイテムと組み合わされる。プレーンなシャツにはスラッシュを入れた甲冑(かっちゅう)のようなパーツを重ね、カムフラージュのセットアップは竹やぶのような和の迷彩になっている。将棋の駒を全面プリントしたセットアップや般若面をかたどったマスクが、ジャポニズムを強調する。

 コロナ禍を経て、自らのアイデンティティーと向き合い、ジャポニズムとモダンデザインの間を模索する久保。そこには、ジャポニズムを伝統的な民族服にとどまらせることなく、伝統を背景にした新しい日常着へと発展させようとする意欲を感じることができる。確かに作務衣のようなアイテムとユーティリティースタイルにはある種のシナジーを感じることができる。ユーティリティースタイルに、エキセントリックな要素を加えることで新しく見せる。それは、「アストリッド・アンデルセン」らが中心となってロンドン発のトレンドとなったラグジュアリースポーツスタイルとも共通する。ただし、今回の女性が着るルックを見て、今よりさらにエキセントリックな要素を加えた方が、強いものになるように感じた。

 新しいユーティリティースポーツスタイルとして、日常着として使いやすく売りやすいものにとどまらない方がいい。多少、売るのも着るのも難しくなっても、久保の持つクチュールテクニックをさらに盛り込んだ方が、このデザインの流れが生きるように思う。

ヨシオクボ
ヨシオクボ

(小笠原拓郎)

 渋谷の小さなミニシアターを会場にしたコンダクター(長嶺信太郎)は、登場人物が新作を着用するショートムービーを上映した。コロナ禍が長引き、発表の方法を模索するなかで「映画館に来て見ることも特別なことであって、生の良さとして感じられるんじゃないかと考えた」と長嶺。脚本・監督は小林達夫氏に依頼した。登場するバンドマンが着用するのは、ミックスツイードを使った緩やかなシルエットのナポレオンジャケットにフレアパンツ、ジョーゼットのボウタイブラウスにベルベットパンツ。00年代前半のモードスタイルを軸に、艶っぽさとレトロムードが入り混じった印象だ。服として主張あるものを作っているが、放映後にキャストがネット上で話題になっているのを目にすると、以前のリアルショーの時のような服に対するワクワクした気持ちは薄まってしまう。より多くの一般消費者に開かれたファッション・ウィークを、という点では効果を果たしているのかもしれない。

コンダクター

(須田渉美)

 上田安子服飾専門学校の学生が実践教育の一環で手掛けるレディスブランドUCFが、東京コレクションに初参加した。披露したのは、モノクロの軽やかな造形服。スポーティーなフィールドジャケットやトラックパンツの縦横にドローストリングを走らせて、ドレッシーなギャザーで体を包んでいく。優雅な布の動きに、カットジャカードやランダムプリーツの凹凸や光沢が華やかさをプラスしつつ、あくまでもワンカラーでシャープに仕上げた。学生のブランドながら、14年のブランド設立時からパリで発表してきた中堅。経験を生かした服作りはしっかりと軸がある。

UCF

(青木規子)

〈デジタル〉

 サポートサーフェス(研壁宣男)は白い布がドレープを描く空間で、前回に引き続き、前後のフォルムの変化をクリアに見せるランウェー形式の動画を配信した。テーマは「しなやかさと強さ」。布の持つハリとドレープを生かして構築的なシルエットを作りながらも、どこか抜け感もある滑らかな輪郭のコレクションだ。ラグランスリーブのシャツは、前から見るとカフスの付いた直線的なフレア袖だが、袖下が開いて背後でふんわり揺れるシルエットを描く。肩回りにたっぷりとギャザーを入れたブラウスやドレスは、膨らみを出しながらも袖口を折り上げて手首を解放するバランスが今の気分に合っている。ストライプ柄のパンツは、腰からポケットに向かう布が誇張したラインを作り、後ろ姿は緩みのあるシルエット。きりりとしたポジティブな姿勢を出しながらも、緊張感をリリースするような流れる線が心地よい。ジャケットの着こなしが少ない印象だが、輪郭にメリハリのあるフォルムと、カマーバンド風のベルトでキュッと引き締めたウエストの表情に、自由で品のある今の時代の女性らしさを感じさせた。

サポートサーフェス
サポートサーフェス

 初参加のアヤーム(竹島綾)は、モダンな建築のホテルを宇宙船に見立て、柔らかな色と繊細なテクスチャーに特徴を出したコレクションを見せた。レディーライクな装いをモダンに見せるのは、飾り過ぎずに変化を出したディテールだ。ノーカラージャケットに重ねたオーガンディを途中から手繰り寄せてプリーツのような表面変化を作る。セットアップのスカート裾にもクシュッとしたアクセント。60年代を思わせるレトロなリブニットのタイトスカートはウエストや裾を、光沢がかった細い糸で切り替えてスカラップ型に仕上げた。その軽やかなタッチの編地がクリーンな表情を添える。使っている素材やシルエットの出し方はフェミニンなのに、手加減して異なる要素を交えるバランスが目を引いた。

アヤーム

 チノ(茅野誉之)は、海がきれいに見える自然の景色を舞台に、レトロなムードのワードローブをユニセックスで見せた。テーマは「フラワーチルドレン」。袖にフリンジの付いたボーダー柄のプルオーバーにくたっとした細かい畝のパンツ。70年代を思わせる解放感のあるスタイルだが、ベージュ系のざっくりしたニット、シボのきれいなストライプ柄など上質なテクスチャーに置き換え、リゾート感のある大人の装い仕上げた。足元はスポーツサンダル。バックミュージックのヒップホップとともに、茅野らしいストリートムードに引き寄せるが、それだけでは終わらない。後半は、力強いピアノの曲とともに、クリーンでしなやかなエレガンスを感じさせるスタイリングに。サイドの切り替えで体のラインを際立たせたロング丈ドレスやパンツなど、シンプルなフォルムが心に響く。

チノ

 初参加のサートグラフ(中野晋介)は、四角柱が立ち並ぶ白い空間を男女のモデルが歩くランウェー形式の動画を配信した。ロンドンのセントラルセントマーチン美術大学でテーラーリング技術を研究していた中野は、ミニマリズムの視点で主張のあるフォルムを構築し、複数の着方ができるディテールを取り入れる。肩パッドを入れたジャケットは、肩のラインがふっくらとした曲線を描き、芯の強さを感じさせる。その延長で作ったTシャツの生地を使ったドレスは、リラックスした着心地なのに品の良さがある。映像を通しても丁寧な作りを感じるが、欲を言うと、ユニセックスから一歩踏み込んで、女性らしさがもう少し見える何かがあると、コレクションに深みが出そうだ。

サートグラフ

(須田渉美)

 ジュン・アシダ(芦田多恵)は、キヤノンの「ボリュメトリックビデオシステム」による3次元のムービーで見せた。新しいテクノロジーとそれを駆使するクリエイターと組むなど、新しい見せ方を続けてきた芦田多恵らしい挑戦。大都会を思わせる無機的な空間で、このブランドの核心であるエレガンスに目を集中させる。フィジカルではないからできる、不思議な感覚で見るコレクションとなった。芦田淳のアーカイブをアレンジしたというドレスもあり、そのクチュール技術の存在感が光る。プラクティカルなドレスやジャケットは、少しリラックスしたムード。ジオメトリックプリントやブロンズカラーが目を引く。芦田多恵は自身がデビュー30周年となる節目として、今回はジュン・アシダで発表した。

ジュン・アシダ

(赤間りか)



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