楽天ファッション・ウィーク21年春夏 パーツ合体やレイヤードのメンズスタイル

2020/10/16 11:00 更新


 楽天ファッション・ウィーク21年春夏は、注目の若手によるフィジカルのショーが相次いだ。トウキョウファッションアワード2020に名を連ねるメンズブランドが、ソーシャルディスタンスを意識した会場で新作を見せた。

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〈フィジカル〉

 座席や照明など会場すべてが銀箔(ぎんぱく)に包まれた空間で、ユウキハシモト(橋本祐樹)がフューチャーリスティックなコレクションを見せた。異なるアイテムがパーツのよう組み合わされ、ファスナーやテープで合体していく。そんなデコンストラクトなデザインが特徴だ。ゼッケンのようなパーツはブルゾンにはめ込まれ、タブのようなディテールとなって服に変化を作る。パンツの裾も大きくロールアップして側章を隠したり、ボタンで留めてディテールを変えたり。合体させてアイテムをずらしながらレイヤードしているように見えるアイデアが面白い。

 ステッチワークを利かせたシャツとスカーフの組み合わせやフューチャーリスティックなグラフィックは、かつての「プラダ」や「ラフ・シモンズ」からの影響が見て取れる。1シーズンだけで判断するのは難しいが、このずらしながらパーツを重ねていくアイデアをこの先、どう展開していくのだろうか。「クレイグ・グリーン」のように、一つのアイデアをベースにシーズンごとにアイデアを展開していけるのなら面白いのだが。あるいは、次シーズンはこれとはまったく違うアイデアでコレクションを継続していくのであろうか。アントワープ王立芸術大学出身の橋本がどれくらいの引き出しを持っているのか、今後に期待したい。

ユウキハシモト
ユウキハシモト

 鉄骨を組んだステージに次々と男性モデルが現れる。ミーンズワイル(藤崎尚大)のショーは、感染への配慮からか着替えなくてもすむようにたくさんのモデルを用意した。ブランドコンセプトは「身体に最も近い道具」。アウトドアやスポーツアイテムがパーツのように組み合わされ、合体する。ハンドウォーマーやレッグウォーマー、ポンチョやパッデッドアイテム、それらがパーツとなってレイヤードされる。とはいえ、シアリングのようなテープ使いやパッデッドアイテムのボリューム感など、春夏とは思えないような風合いが気になる。初のショーで、しかもコロナ禍という状況もあってか、とにかくたくさんのモデルでたくさんのルックを見せたかったのかもしれない。しかし、研ぎ澄まされたブランドの本質をギュッと凝縮させたルックに絞って見せたほうが良かったように思う。

ミーンズワイル

(小笠原拓郎、写真=ユウキハシモトは加茂ヒロユキ、ミーンズワイルは堀内智博写す)

◇表現力豊かなインターナショナルの若手ブランド

〈デジタル〉

 ファッションウィーク中日の14日は、インターナショナルの若手ブランドが制作した動画のデジタル配信が相次いだ。それぞれの洋服に表れる独創的な個性に加えて、現代アートのように音声や背景の演出、アニメーションなどが融合され、外国人ならではの表現力の強さを感じた。

 ロンドンを拠点にするティスカー・エスパダスは、スペイン出身のデザイナーでアーティストのティスカー・エスパダスが手掛けるメンズウェア。袖やパンツの裾を構築的にした作りと肩回りの丸みを帯びたシルエットを組み合わせて、イノセントな表情の日常着を作る。動画は、中性的な顔立ちの男性や老人が洋服を着用し、たたずまいやディテールが伝わるようにポーズをとる。体にドローイングのようなタトゥーの入ったモデルは、付け襟のアクセサリーにタトゥー風のプリント柄のネクタイで運動する。遊び心のある演出が面白い。シーンに合わせて流れる、スペインのクラシックギターやカスタネットの音楽が心に響く。

ティスカー・エスパダス

 同様にロンドンを拠点にするファビアン・キシュハスは、ハンガリー・ブダペスト出身でトランスジェンダーのファビアン・キシュハスによる乙女心を大事にしたウェア。動画は、パープルピンクの空に向かって伸びるステージのアニメーションでスタート。その色が変わるなかで、複数の配色のレースやフリルをつないだウェアやフェティッシュなブラを着用したモデルが、無邪気に手を振ってウォーキングする。「60年代や70年代のイタリアのホラー映画をよく見ていた」というだけあって、少女的なものへの憧れを超えて怖さも感じさせる個性に引き込まれる。

ファビアン・キシュハス

 ロビン・リンチは、アイルランドの国民スポーツの一つ、サイクリングに着目したコレクション。ダブリン出身の女性デザイナー、ロビン・リンチ自身もサイクリングを趣味にし、「プレイフルなデザインがあったらと考えていた」という。ユニークなのは、90年代のエッセンスを入れたサイクリングウェアに、強みのケーブルニットをレイヤードするスタイル。今回はレディスウェアも制作、立体裁断でサイドのマチの切り替えや前見頃を走る曲線でスマートに見せた。動画は、懐古的な自転車レースの映像で始まり、ルックを撮影する過程を見せた。レース風景を背景に、ウェアを着用したモデルを浮き立たせている。

ロビン・リンチ

 ラトビア出身のサビン・スカルールが手掛けるスカルールは、険しい雪山を撮影した動画を差し入れつつ、フランス語の詩の朗読を交え、一人の女性の心の声を伝える一人芝居のようなムービーを配信した。目を引くのは、ラトビアらしいクラフト感があり、モダンなフォルムにアップデートされたニットアイテム。トラッドな柄のニットベスト、複数のケーブル編みが組み合わされたプルオーバーなど、ぬくもりを感じさせるスタイリングとポエティックな演出とで、優しい気持ちを感じさせている。

スカルール

(須田渉美)



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