楽天ファッション・ウィーク東京20年春夏は、日常の景色や過去の記憶など自分に身近なものに、別の視点からアプローチして新しさを生み出す若手のデザイナーが目立っている。非日常よりも、リアルな都市生活に関連して共感や笑いを誘い、多くの人が価値を共有できるクリエイションが目立った。
(須田渉美、写真=加茂ヒロユキ)
【関連記事】楽天ファッション・ウィーク東京 「ヨシキモノ」で開幕
その一つがステア(武笠綾子)だ。同じ世界を愛する人の目は何を見ているか、サイト(視界)をテーマに、あいまいさや感情の移ろいをスタイリングに落とし込んだ。モノトーンやベージュにペールカラーを差し入れ、異なるテクスチャーやパターンの融合を絶妙なバランスで見せた。
片側がノーカラーのテーラードジャケットに、花とジオメトリック柄のほぐし織りを切り替えてフリンジを入れたドレス。モワレのミリタリーシャツは袖にオレンジのメッシュラインが入り、セットアップのパンツはスリットが入ったフレアライン。曲線の花柄、アシンメトリーなプリーツのディテール、肩の構築的な作りなど、様々な要素が入り混じっているのに、シンプルに削ぎ落とす部分を作り、ピュアな美しさを引き立ている。

ユニセックスで見せたティートトウキョウ(岩田翔、滝澤裕史)は、ビルの窓越しの風景など身近な景色を生地のニュアンスで表現し、大人っぽさを感じさせるスタイリングを見せた。ゼロから発想するのではなく、「都市空間という現実的なものからイメージが広がった」と岩田。
繊細なステッチを入れた市松模様のセットアップは、スカートを斜めに切り替えてアシンメトリーに。グレイッシュなマーブルプリントのトップには光沢のあるプリーツをレイヤードしたスカート。持ち味の柔らかい印象に、軽さやシャープな要素を加え、都会的なエレガンスに仕立てた。

パルコのインキュベーションプロジェクトで参加した「バルムング」「ノントウキョウ」「ボディソング」の3ブランドも、身近なものを再解釈したり、コラージュするようなスタイリングに新しい魅力がある。
バルムング(ハチ)のテーマはデザイナーが生まれた年の1985。会場には古びた籐(とう)の椅子、日焼けしたスクールバッグ、サーフブランドのショッパー、使い古した「スーパーファミコン」などが並ぶ。「福岡の田舎で育った僕の視線をSF的に表現した」とハチ。
透明感のある高密度素材を使ったスポーティーなブルゾンにショートパンツ、ビッグサイズの白シャツにジャージーを切り替えたレギンス。シアー素材やメッシュ、メタリック素材をコラージュしたディテールに、大味なデニムのキュロットを合わせたり、ボックス型のスポーツバッグを添えたり。フューチャリスティックなのに田舎っぽさも残るズレたバランスをクールに見せた。

ミリタリースタイルと日本人のカワイイ感覚を融合したのはノントウキョウ(市毛綾乃)。ソルジャーをテーマに、デザイナーが小さい頃に憧れた「セーラームーン」など女の子のヒーローを描いた。
ギャザーを寄せてパフスリーブを強調したドレスの肩に留め具のストラップを入れ、ワークポケットを大ぶりのフリンジで飾り立てたる。迷彩柄にポップな花柄をプリントしたり、シアーなピンクの羽織りアイテムを差し入れたりと、大人可愛いスタイルをチャーミングに見せた。
環境配慮のクリエイションもポイント。使い古したスポーツブランドのスニーカーをのアッパーをカットしてパンプスに載せたショーピースを作った。

ボディソングは、なじみのあるアイテムをビッグサイズにアレンジしたストリートスタイル。ダッフルコートの袖を落としたベストをポロシャツやワークジャケットの上にレイヤード。襟が大きく開いたシャツに肩がドロップしたリブのセーターを重ねるなど、ユニセックスで着用できるスタイリングで今っぽく表現した。

ネグレクトアダルトペイシェンツ(渡辺淳之介)も、デザイナーが過去を振り返ってユニークなショーを見せた。「10代に憧れたものや好きなものを詰め込んだ」と渡辺。マルコム・マクラーレンやカート・コヴァーンなど英国のロックミュージシャンを思わせるストリートカジュアル、ヤンキー文化を象徴するジャージースタイルをミックス。ショーの定番となっているヌードルのパフォーマンスは、白のヒョウ柄ジャージーを着たとっぽい女性が「流しそうめん」を食べ、日本の夏を演出した。
