20~30代を中心としたレディス市場を取材していて、改めてブランド力やブランドらしさが問われていると感じる。それは本来、いつの時代も尊重されるべき価値だが、ひとたび売り上げが落ちると迷いが出てブランドの軸がブレてしまう。しかし、今はどこかのまねをすることで利益を得られる市場環境でもない。各社は、競合他社ではなく自分たちのブランドや顧客と向き合うことに活路を見いだそうとしている。
(石井久美子=東京編集部レディス専門店担当)
何をしたいのか
大手レディスチェーン専門店各社が、中国の小売事業の赤字脱却へ戦略見直しや撤退を決めるケースが相次いでいる。背景にはECの普及など市場の急激な変化もあるが、海外市場で闘うための明確な強みをいかに発揮するかという課題も大きいと感じる。当然、日本での知名度を同レベルで生かすことは難しい。価格面でも、安い商品は現地にいくらでもある。品質なのか、デザインの個性なのか、あるいは店全体から発するイメージなのか、何かしらの明確な差別化がないと広大な市場で存在が埋もれてしまう。ブランドのそうした〝らしさ〟を表現するため、各社は中国での店のあり方を再構築している最中だ。
国内においても、ファッションビルや百貨店を取材すると担当者は口を揃えてこう言う。「中途半端なブランドは売れないが、逆に自分たちのやりたいことが明確なブランドは好調です」。言葉にするとものすごく当たり前だが、隣の店の売れ筋の後追いなど、周囲に流されてしまうブランドはまだまだ多いという。
「昔は同じフロア内の人気ブランドに付いているお客の買い回りも多かったが、今は自分たちで集客しないと」と、あるブランドの担当者。女性のファッションは今やテイストミックスが当たり前で、○○系のような分かりやすいジャンルはあまり聞かなくなった。〝ムラ〟の規模が大きければ、リーディングブランドをベンチマークしたビジネスモデルも成立したのかもしれないが、ニーズが分散している今は恩恵を受けにくい。おのずと、単に「競合ブランドの価格の少し下をくぐる」ではなく、自分たちのブランド独自の価値に向き合わざるをえなくなる。ただし、そのジャンルで圧倒的に安いとなれば、それはそれでブランドの価値ではあるのだが。
顧客の声を聞く
ブランドが方向性に迷っている時や売り上げが低迷している時を当事者に振り返ってもらうと、共通のエピソードが出てくることが多い。例えば、顧客は保守的だが新規客獲得のためにトレンドの強い商品を入れた、出店先によって客層や売れる商品が違うため各販路への対応を強化した、などの取り組みの結果、「本来うちに必要のない商品が増えてブランドがぼやけてしまった」。
「自分たちではブランドのイメージやニーズをこうと思い込んでいたが、顧客の声を聞くと違った」という話も聞く。マーケットインの発想だけではブランドの個性が弱まってしまうが、ブランドとファンがズレていないか、ときにはきちんと答え合わせをすることも必要だ。ブランドのあるべき姿が浮き彫りになれば、余計な品番も減る。
競争の激しいレディス市場で生き残っているロングセラーブランドは、この店に行けばこういう商品が必ずあるという、消費者の信頼や安心に応えることを大切にしている。ブランドの顔になるような定番商品は強い。ファッション業界は、ついおしゃれであることを最善としがちだ。おしゃれであること自体は全く悪くないし、常に最先端を追求することこそが価値になるブランドはある。問題は感度や変化を志向するあまり、本来の顧客を置いてけぼりにして、〝メシのタネ〟になる商品も切り捨ててしまうことだ。
「ブランドの個性は、お客様に求められていることを磨き続けた先にあると思うんです」という、あるレディス店の経営者の話が印象に残っている。自分たちの好きなことだけで突っ切れるブランドはほんの一握り。大多数のブランドにとってはやはり、自分たちは何をやりたいのかというプロダクトアウトと、ファンが何を求めているのかというマーケットインのバランスが大事なのだと思う。時代に応じて最適なバランスを探り続けることのできるブランドが、市場に無くてはならない存在として残っていく。
(繊研新聞本紙8月20日付けから)