企業改革講座⑪
企業が成長を続けるために知るべきこと行うべきこと
店舗運営部門のPDCAはどうあるべきか
複数の店舗を展開するブランドや小売りチェーン店には、複数店舗の運営を見ているマネジャーがいます。彼らは営業マネジャーや店舗運営マネジャーと呼ばれ、担当店舗の売り上げについての責任を持ちます。
彼らが商品の店舗ごとの振り分けをする店舗MD業務を行う企業もありますが、多くの場合、毎週、担当の店を巡回し、店長の上長として、各店舗での接客販売の仕方や、店での商品の陳列販売の仕方、場合によっては各店舗の商品構成についても指示や指導をします。そして営業マネジャーは、通常、週1回程度、本部やエリアの拠点に集まって、それぞれが現場の状況を上長に報告します。
彼らの週次の活動の実態を見ると、一人ひとりの動き方を定義できている企業は多くありません。そのため一般的に動きは属人的になり、さらに、店への指導内容にも個人差があり、何よりも臨店先の店が、本人が行きやすい店や、売り上げの大きな店に偏り、半年の間に一度も顔を出していない店ができてしまうこともあります。これは営業マネジャーの責任というより、組織図に店舗の営業マネジャーの名前だけをはめ、あとは数値責任だけを決めて、組織の設計が完了した気になっている経営側に問題があるのです。
PDCAを回す対象を明確にする
組織も機能してこそはじめて組織たりえます。そもそも組織図を作成する際には、その組織図に描かれたそれぞれの箱の使命と職務内容を明記しなければ、経営の意志として最低限必要な業務指示にはなりえません。現実には、組織図と評価指標となる数値責任を決めるだけで、肝心の業務指示を明確にしていない企業が多いのが実態です。
営業マネジャーの週次の業務はどうあるべきか
担当の店舗を複数与えられ、その店舗の売り上げ責任を負わされた営業マネジャーの動きの多くは次のようになります。
平日は、急な退職者、欠員補充などの人事対応や、顧客のクレームなど対応が必要な店などを訪れ、もしそうしたイレギュラー対応がなければ、自身が拠点にしている店に行きます。そして週末には、担当エリアの基幹店舗や大型店で自ら店頭に立って売り上げを作るというのが典型的な週次の動きになります。
本来、マネジャーとして、担当店舗全体の売り上げの最大化を図ることがミッションであり、店舗ごとに異なる売り上げアップのための課題を特定し、それらを解決して回ることが本来の職責です。そして自分が週末に張り切って販売をするよりも、担当店舗の課題が具体的に改善されて、各店舗の努力で既存店前年比が伸びていく状態を作ることのはずです。
・店頭から通行客に向けての訴求力が弱いため入店率が低い店
・販売スタッフの接客力が弱く成約率が低い店
・店内の客導線が悪く、一部のコーナーには入店客が入らない場合
店長が自店の課題に気が付かずとも、全店舗の数字を見ているマネジャーは、その店の数字の偏りには気が付くことができます。営業マネジャーの職責を考えれば、その業務定義は、例えば、「担当店舗の売り上げ改善のための課題を解決し、全体の数字を上げる」となります。
しかしここで職務内容の指示が明確になされていないと、営業マネジャーは、自分の得意な技に偏った手、思い付きの手を打つようになります。商品陳列が得意な人はそればかりを店舗で自ら行い、接客が得意な人はその指導ばかりを行うことが多くなります。
思いつきでは活性化は不可
小売業では現場の情報に接し精度の高い仮説をイメージするために店回りは重要です。しかし小売業のマネジャーやその上の上席者、あるいは社長と店回りをして気がつくのは、店の課題に関しての着眼点や指摘ポイントは、おもしろいほど、人によって異なると言うことです。
ある全国的チェーンの小売企業で実際にあった話です。
低迷状態の店に上席者がかわるがわるにやって来ました。ある役員は「このレイアウトは客導線が悪い」と、什器や棚の位置をその場で変えました。その後にきた営業部長は「何をおかしなレイアウトにしているんだ」とレイアウトを元に戻し、その後に「陳列が悪い」とディスプレーを整えました。その翌週に来た社長は「ここの店長は覇気がない」と言い、店長を交代させました。
確かに店の売り上げは店長の腕次第というのは現実です。腕の良い店長の数に限りがあります。この会社の営業本部には、優秀なマネジャーがいました。彼はどの店に行ってもしっかりと店を活性化し、数字を上げることができました。彼は事前に、客数、客単価の変化、商品のカテゴリーごとの数字の全社平均との比較を行い、どこに問題があるのかを特定しました。そして店に出向き、分析に基づいて現場を確認して手を打ち、売り上げを回復させました。
上記のようなことは、科学的なアプローチが根付いていないファッションや小売りの企業では、日々現実に起きています。
本来、不振店舗の売り上げを改善するアプローチとしては、全店舗平均と比べ、
・商品カテゴリーの売り上げに、理にかなっていない偏りはないのか
・客単価、客数、成約率に異常がないのか
・もしあれば、それはなぜか
などから入ります。偏りや異常があった場合は、理由を追いかけ、店の運営の仕方や、商品構成、レイアウトのどこに問題があるのかを特定するという基本動作は、全マネジャーが行うべきものです。
それを担当の営業マネジャーなどの上席者が、基本数字の把握もなしに現場を見て、自分の思いつきを実施し、それも功を奏していないとなると、企業としては好ましい状態ではありません。
業務内容の定義と業務設計を的確に
ここでは営業マネジャーの「打ち手」の範囲を、
・店舗の陳列指導
・接客指導
・商品構成の最適化(商品部MD、DB〈ディストリビューター〉との折衝により実現)
とし、担当店舗全体での、当期、そして中長期の売り上げの最大化に向けて、課題を解決し、変化、改善させることが使命と言うこととします。本来、マネジャー職にあるものにとって「売り上げ」は、自身が販売して数字をつくることよりも、いかに売り上げが上がっていく状態をつくれるかと捉えられるべきものです。
1週間の中で売り上げを上げるための活性化活動に取り組める店舗数は一つだとすると、どの店舗を対象とするかについては営業マネジャーの上席者と握るべきものです。上席者は限られた経営資源である部下の時間を使って、その活動の成果を最適化する使命があります。営業本部長となる上席者は、各営業マネジャーが1週間をどのように使えば、担当店舗の総売り上げを当期、中長期的に最大にできるのかを判断する責任があります。
本来、必然的に決まる週次の業務内容については明示されている必要があります。例えば、営業マネジャーも週末は店に出て状況や商品の動きを把握した上で、月曜日の朝に出力される前週の担当店舗の営業データを確認し、課題を抽出して各店の対策案を明確にします。そして、前週の活性化対象店舗の総括を行い、当週の対象店舗を定め、現状分析と対策の方向性を明確にします。これらを営業本部長との週次のミーティングで報告、発表して、当週の活性化対象店舗について握り合うということになります。
現実には、営業組織の標準業務の設計がなされていない企業は多く、マネジャーの選抜も「覇気がある」「笑顔がいい」など、トップや上席者の主観的判断でなされている場合もあり、中には単に弁舌がたつがゆえに登用されているマネジャーがいます。結果としてこれが、店が本来、ポテンシャルとして持っている力を最大限に引き出せない原因にもなってしまいます。
ルーチン(定型)業務に置いてPDCAサイクルを正しく回すためには、まずはこの業務の定義、業務設計を適切に行うことが必要になります。
結果を検証し、次週のプラン承認
週次の報告会は、営業マネジャーが回しているPDCAの状況を、各マネジャーのPDCAの精度に責任を持っている、上席者である営業の統括責任者に報告する場です。各営業マネジャーの職責を店舗活性化とすると、前週のその活動の結果の報告と、当週の活性化対象候補店舗の計画についての発表を行うことになります。
①前週、発表した活性化プランの結果の報告
・売り上げ、客数、客単価、買い上げ点数などの「管理ポイント」が、前年同週、前週と比べてどう変化したのか。その理由は?
・どの打ち手の効果があったのか。あるいは何を読み違えたのか。その理由は?
・当週以降、その店については何を課題として取り組むのか?
②当週の活性化プランの発表
・当週はどの店の活性化に取り組むのか? その理由は?
・その店の課題は、何を根拠にそう考え、どういう活性化プランを立てているのか?
この会議における営業本部長の役割は、営業マネジャーの週次サイクルのPDCAが正しく回っているかどうかの確認です。もし発表内容が理にかなっていなかったり、事実確認の不足などの不備があれば、それを指摘し、因果を正しくつなげるための指導を行わねばなりません。また前週の営業マネジャーの活動が結果に結びつかず、数字が上がらない場合もあります。その際、数字を上げることができなかったこと自体は叱責の対象にはなりません。
現実には「気合いを入れる」として、数字を上げられなかったマネジャーを叱るということが多くの営業現場において行われています。しかし、マネジャーの前向きなエネルギーを発揮させるためには、むしろ理をもって「なぜ数字を改善することができなかったのか」の理由の解明に「圧」をかけ、対応策のボキャブラリーを組織の知恵にする場にした方が、事業運営の効果、効率両面から考えても好ましいはずです。
前週の店舗活性化がうまく行った場合は、その営業マネジャーのプランが正しかったことになります。そして、どの店の活性化においても成果を出せる営業マネジャーは、店舗の活性化に関して「再現性」がある成功則を体得しており、腕が良いということになります。
この会議での報告では、うまく行かなかった時の、要因の深掘りと再対策の発表が、真骨頂となります。因果を追いかける訓練をしていない営業マネジャーは、自分の思いつきと根拠の希薄な勘だけに頼って打ち手を施します。営業マネジャーの中には、説明がうまくなくとも、勘が培われていて、結果を出していきます。一方、その勘が正しく鍛えられておらず、トップからは好印象を持たれていても、実は、数字を上げることができていないマネジャーもいます。
そもそもマネジャーの仕事は、中長期も含めた売り上げ、粗利、経費効果などの数字を改善することです。店舗の営業は、自由奔放なクリエーティブさだけで勝負するような業務ではありません。売り上げをうまく上げる方法論を見いだし、共有していくためにあり、数字の上げ方を、言葉とグラフ化した事実で明確にしていく場になります。好ましい発表は、例えば、次のようになります。
この店の入っているSC全体の売上高、入店客数が前年、前週を、それぞれ○%、○%上回っているのに、自店の入店数は対前年比○%と低下傾向にあり、前週は前年対比で、○%、○人減っています。実際に、この店の店頭はこのような状態で、(写真を見せる)他の競合店舗と比べても、通行客の視線をつかむ力が乏しいと言えます。よって、今週は店頭のアイキャッチなどの訴求力を改善し、入店数を増やすようにします
この店では、弊社の一押しの商品が他店と比べて売れていません。入店客数は下がっていないのですが、顧客導線を追いかけたところ、店内の売れ筋を陳列してあるコーナーに顧客が入って来ていません。(顧客導線の調査資料を見せる)まずは、売れ筋を置いてあるコーナーのボリューム感を高めて、入店客を誘導する磁石効果を高めます。まずはそれをやって今週は様子を見ますが、それでも効果がなさそうならば、次週以降はコーナーの配置を変更することを考えています
営業マネジャーは、数字、事実に基づいて、問題点の因果の読み、施策を導いた理由付けがしっかりわかる発表を行う習慣付けを行います。慣れないうちは、うまく因果の仮説を立て、施策を導く流れをうまく説明することが出来なくても、繰り返していくうちに、理にかなった言語化の能力は、例外なく誰でも高まっていきます。
修正企画を導いた理由が一目でわかる
マネジャーの報告が、PDCAを回している連鎖が一目見でわかるように「見える化」するには、発表用の帳票、あるいは報告シートの設計精度の高さが求められます。前週の企画Pを実施Dした上で、その業務の「管理ポイント」がどのように変化し、どのような意味合いが抽出され、そこでの学びCが明らかにされて次の週の企画Pにつなげます。この一連が一目でわかるような発表用の帳票を設計します。
この事例の場合では、前週に立案した活性化プランについて、当週の報告の際に、前週までの経緯や打ち手が確認できる、連続性をもった説明、確認が容易な帳票が必要です。
方法論の精度を高める改善で進化
これらの手順をしっかりと企画し、進め方の説明会も行い、帳票も記入サンプルまで作成した上で、いざ、実際にこれらを動かしてみると「この記入用のマスはもっと大きいほうがよかった」などの修正点がいくつも出るものです。最初の1カ月程度は、ほぼ毎週、発表帳票を見直すことが必要になるものです。手だれである我々プロが、帳票や会議の進め方、業務フローの初期設計をしても、実施状況をつぶさに観察し、よりわかりやすく、使いやすく、PDCAの精度が上がるように、さらに修正Aを加えて磨き上げていくものです。
さらに業務定義や「管理ポイント」を見直す改善Aも、必要に応じて行われるべきです。PDCAのPDCに相当するプラン・ドゥ・シーのサイクルを回すだけでも、業務の知恵を積み重ねていくことができます。さらに、この方法論の進化Aというステップを加えたPDCAを真摯(しんし)に回すことは、事業運営の方法論そのものの精度を高め、進化させることになります。それによって、間違いなく素晴らしい、進化し続ける事業体を作り上げていくことができるということになります。
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