企業の成長持続のために知るべきこと 第12回

2016/05/09 17:22 更新


企業改革講座⑫
企業が成長を続けるために知るべきこと行うべきこと

あなたの企業の会議は大丈夫ですか? 進め方について知っておくべきこと

 

 先日、歴史のある大手企業の会長と話をしていた際、「うちの会社、何だか会議がおかしいんだ」という話が出ました。

「部長や課長と会おう、話をしようと思っても、会議ばっかりしている。社内のイントラネットで予定表を見ても、なんだかみんな、社内にいる時間の多くが会議で埋まっている。昔はこうではなかったのに、何が起きているんだ」



 今回は、企業、組織運営においては必須であり、重要な「会議」というものが、現実は効果的、効率的に運営されていない実態を踏まえ、そもそも論として、どう運営したよいのかという点から話を進めていきたいと思います。

会議


■会議の運営の実際


 企業の中には、例えば製造現場や店舗内での店長とスタッフの打ち合わせから始まり、企業の最上位には経営会議、取締役会まで、組織においては、あらゆる階層で複数の人が参加する会議が存在します。気心の知れた小さい単位の組織での話し合いは、比較的簡単に課題解決や同意を得ることもできるでしょうが、規模(人数や管掌範囲のスパンの大きさなど)が大きくなると、なかなかそうはいかなくなってきます。

「一人が勝手にしゃべっているだけだ。うちの会社は…」

「延々と会議をやっている。こっちは忙しいのに」

「今の会議、いったい何だったんだ」


 かつて、ある会社で「そんなことどこに書いてある」「ここに書いてあるだろうが」「こんなもんじゃわからん」と部長同士で資料の投げ合いをしている熱い応酬?の場を見たこともあります。
 
 拙著『戦略参謀』(ダイヤモンド社)の第2章冒頭にも、経営会議の場面があります。ここでは、主人公を支える上司が出席する会議の場で、売り上げ不振の理由について社長の前で議論されているにもかかわらず、真の原因の追求がなされないうちに論点が変わってしまいます。そして思惑を持つ者が自分の都合のいいようにことを進めようと、大義名分を立てながら会議の流れをコントロールしてしまいます。おそらく、誰でも「あるある」と感じる様子を、この本の中ではその上司の視点から問題点の解説を付けて描きました。


■会議の三つの役割



 本来、会議の場を持つ目的は、次の三つに大別されます。


①周知徹底、伝達

②ブレスト(ブレーンストーミング)

③意思決定



 ①「周知徹底、伝達」は、すでに決まったことを伝える場になります。内容は、基本は通達であり、理解を浸透させるための質疑が伴うこともあります。

 ②「ブレスト」は、解を求めて意見や見方、情報を展開する場になります。この場は、議論に必要な材料となる資料や分析、そして何よりも、着地を見いだすべく、その意味合いを発言する「言語化」する姿勢が必要になります。会議に出て、後学のためにただ黙って座っているならば、それはオブザーバー参加であって、会議の出席者とは言えません。

 ③「意思決定」は、「わが社は○○事業を推進する」「この地域(あるいはチャンネル)に出店を始める」「今期はこの商品を主軸に置いた展開を行う」などの事業方針、商品方針のような規模の大きいものから、週次の商品対応など、様々なレベルの決め事を行うことになります。会議の場でこれを行うためには、意志決定に当たって、起案者を含めてその案件についての情報をもっている人は参加しますし、また、その決定の背景、理由、過程を理解した上で、組織内に展開する責のある幹部も出席することになります。

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 現実的には一つの会議の場には、上記①から③の目的が入り交じることになります。例えば、商品バイヤーが前週実績の結果から判断し、当週のMDの対応について、商品本部長や事業部長、ブランド長などの上長の承認をとる、週次のMD会議の場を想定してみます。精度高く、適切な現状把握があっての週施策の発表であれば、目的は③のみです。

 しかしそれは、前週の結果の現状把握、現状分析と意味合いの抽出が的確に行われており、各アイテムの商品バイヤーがそこから的確に意味合いを抽出でき、理にかなった打ち手までつなげることができている場合です。そのレベルの業務ができている企業は、現実には多くはないと言えるでしょう。

 そもそもある規模を超えた所帯のブランドや事業体では、MD業務の精度を高めるために、見るべき事実を見るべき角度から見せる工夫がなされないと、売れ筋さえも的確に把握できていないということが起きます。

 本来必要な、週末までの1週間の結果から1~2日で意味合いを把握できるほど、知りたいこと、知るべきことが全て「見える化」されているシステムを稼働させている企業は大変少ないですし、またそれが的確にビジュアル化され表現され共有できている企業となると、さらに少なくなります。

 現場情報や数字分析から、起きていることの意味合いを把握して、当週の打ち手の精度を高めるためには、②のブレストも伴って、課題の特定から始まり、打ち手の検討や正当性の議論を行わねばならなくなります。さらに伝達事項などもあれば、①も含まれることになります。

 


■成果を得るには

 会議の目的が、一つ目の「周知徹底、伝達」であれば、伝達内容が伝わっている状態が、その目標です。よって、理にかなったわかりやすいビジュアルなどを用いて説明がなされ、必要に応じて質問を受ける形をとらねばなりません。

 仮に「自分たちのためだ。しっかり聞いて理解しろ! いいか!」と大上段から恫喝{{どうかつ}}しても、ただ「はい!」という気合いばかりの答えが返ってくるだけで、本当に意図も含めて伝わったかは、かなり疑問が残ります。

「あまり複雑な内容を伝えても、現場が混乱するだけだから」と、発表資料を簡単なものにするケースはよく見かけるのですが、その際に、企画ごとに必要な基本骨格である「What Why How(何をするのか、なぜなのか、そして、どう行うのか)」におけるWhyの部分を省いてしまった資料が発信されているケースをよく見かけます。


 様々な局面における判断を組織に行わせて、かつ組織の能力を育んでいくためにはWhyが必須です。しかしもし、このWhyが欠落していると、「理由を考えずに、言われたことをやれ」ということになり、組織のロボット化を促進することになります。高学歴の方々が集まっている歴史ある日本の企業でもこのようにWhyを欠いた資料が製品戦略として営業に発信されていました。

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 ちなみに、この企業は、製品戦略を作る本部のマーケティング部門が市場から乖離(かいり)を起こしてしまっているという典型的な課題を抱えていました。この企業の営業部隊もそれなりに学歴の高い方々が多く集まっていて、各エリアの責任者がそれぞれ、「多分、こういう意図なのだろう」と、その施策の意味合いを自分なりに解釈し、「なんだか、おかしいんだけどな。この方針」と言いながら営業組織が動くという、よくあることながら、おかしな組織運営になっていました。


 また「伝達」の場で、理にかなった資料になっていない、発表者が自分の言葉で話をすることができていない、出張費用をけちって参加させるべきマネジャーを呼んでいない、など「伝達」の精度を上げる気配りを欠いた場面もよく見かけます。ただ「伝えた」という事実が残るだけにしないように、伝達後にしっかりと組織が機能するように入念に考え、「伝達」する知恵を使うことをおろそかにしてはいけないのです。

 二つ目の「ブレスト」の場合は、問題の原因を明確にする、新しいアイデアを出し合う、解の方向性を導くなど、いくつかの目的があります。いずれの目的にせよ、その議論のレベルを高め、問題点として明確に議論を行うべき方向性の明確化、解に導くために、会議の流れを操舵(そうだ)するリーダー役のスキルレベル次第で、得られるものは大きく変わってしまいます。

■例えば、

 社の中長期方針やビジョンを作りたいと幹部社員たちで合宿を何度も繰り返し、スローガンや目指したい自社の事業規模などをまとめている企業をよく見ます。しかしその多くは、せっかく時間をかけてまとめた結果が実務にはほとんど反映されることなく終わってしまう傾向があります。

 そもそもビジョンには「ありたい姿」が描かれることになります。その前提として、現状の事実とそこから抽出できる意味合いから、市場環境、競合関係や、自社の強み、弱みなどを明確にした上で、ある程度、必然的に決まってくる「あるべき姿」を明らかにした上で、議論を行わねば、地に足がついていないものが出来上がってしまう恐れがあります。

 これは、事業の活性化のための戦略立案と同じ手順を踏むことであり、ブレストの場においても、俗に言う「ロジカルシンキング」を実践できなければ、理にかなったものを作ることは難しくなります。(実践的なロジカルシンキングは、別の機会に触れることにします)

 



 三つ目の「意思決定」は、事業活動の中で、日々、各業務の責任者が必ず行っていることですが、これを会議の場で行うということは、組織の方向性の最適解を決めることになります。
スポットで起きる大型の投資案件や、事業の方向性を決める際においても、意思決定をしてしまえば終わりということは企業経営において、まず皆無です。まず初めに、可否を判断するための前提部分を明らかにしたプランニング資料が必要になります。ここでは、判断の精度を上げ、PDCAを回せるようにするためのプランニング=Pの作法にふれておきます。

 

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 プランニングにおいては、この手順にのっとってまとめていくと意思決定に至った理由が明確になります。80年代に日本企業で導入されたTQC(総合的品質管理)の作法にのっとった方法論を紹介します。TQCは全社的な経営品質の向上活動として展開され、一般のマネジャー職のプランニングの精度を上げるために、使いやすい方法論として展開されました。

 その手法を見ると、実はマッキンゼーなどのコンサルティング会社が使う問題解決のための手法体系と基本的に同じであることに気がつきます。

例えばコンサルタントが、現状把握から意味合いの抽出の時に使いこなす「ロジックツリー」に相当するのが、特性要因図(通称「魚の骨」)に当たります。プロフェッショナルレベルの問題解決を行う場合は精度や、厳密さにこだわりますが、全社レベルで使われる前提で、使いやすい作法になっています(チャート参照)。

 個々の手法についての詳細な解説は省きますが、来年1月刊行予定の『PDCAプロフェッショナル』(東洋経済新報社)に、組織としてのPDCAの正しい実践ためのPやCの方法論を解説してあります。店舗運営業務、MD業務におけるPDCAの実例をあげて実践の仕方を記載してあります。

 


■意思決定は誰か

 全ての業務において、PDCAが存在します。例えば、先ほどの商品のアイテムバイヤーの週次対応においては、PDCAを回している主体はそのアイテムバイヤーです。ではそのバイヤーが回しているPDCAの結果に責任を持っているのは誰でしょうか?

 商品部には複数のバイヤーが居て、担当アイテムの商品のROI(投資利益率=期間内の仕入れ額に対して、どのくらいの粗利益を上げることができたか)を高めるための週次の判断をします。その判断により、その事業部やブランド全体の収益性、成長性を最適化するのは、商品部長であり、事業部長、ブランド長の役割です。

 組織においてPDCAを回すためには、帳票や会議体、Cの作法などの手順をつくり込む必要があります。この手順はメカニズム(機構)のようなものですから、ここでは仮に「エンジン」と呼びます。すると、そのエンジンを起動する意志を持ち、方向舵を握ってかじ取りを行う「ドライバー」役が必要になります。ドライバーは、ゴールを目指してアクセルとブレーキを使い分け、ハンドルを操作し、障害物をよけ、最適なルートを選んでいきます。

 つまり、各バイヤーのPDCAを、事業部やブランドとしての全体最適に導くための判断、承認を行う「ドライバー」役は、その上席者の役割となるのです。

 

講座12のリファイン



 冒頭の大手企業の例で、会議の実態を調べてみると、会議の数が多く、長くなっている理由が明らかになりました。この会社は規模も大きいため、事業部の規模も、一部上場企業の中でも大きい方の部類に入る会社の規模に匹敵していました。ところがこの企業では、事業部長付のスタッフ、参謀機能が充実しておらず、事業部長の業務負荷が異様に高くなっていました。

 加えて、世の中の多くの社長同様に対外的な業務も多く、社内にいないことが多かったのです。複数の部長レベルが出席する会議においては、本来、事業部レベルでの最適解を出すための討議がなされます。ところが、この会社では、事業部長が多忙ということで、事業部内での会議に事業部長が出席することは、ほとんどありませんでした。会議の招集通知に事業部長の名前はあれども「どうせ、出席しないから」と最初から事業部長出席のための予定調整も行われずに会議が行われていました。

 歴史もあり、規模も大きいと、各部門の思惑も当然のこととして芽生えています。各部門にはそれぞれの評価指標もあり、そこに部門長間の確執もあれば、部長当人同士だけの出席では、

・相手の出方の探り合い
・会議の膠着(こうちゃく)
・にらみ合い
・部署間の貸し借り

なども起き、妥協点を双方がさぐるなど、まるで国家間の外交交渉のような状態になります。事業部長付のスタッフが機能していれば、事実ベースでの分析資料を基に議論がなされることは可能なのですが、それも機能していないという状態でした。会議の時間がかかるだけではなく、仕切り直しも数多く発生します。そして、そこで決まることが、必ずしも事業部内の最適化にならない危険性も常にはらんでいました。

 結局、この会社では、事業部レベルでの最適化のための判断の場には、改めて原則として事業部長が出席することになりました。そして事業部長が出席できない際には、その意を踏まえた事業部長付のスタッフ役が出席し、その会議の場での検討内容を、責任をもってまとめ、最終的には、事業部長が決裁、承認を行うように手順を改めることになりました。

 

イメージ写真/Shutterstock.com



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