ろうけつ染めしたインドネシアの伝統的な織物、バティックを使った商品を、現地で生産・販売する日本人がいる。インドネシアに移住して8年の金井愛美さんだ。レントラックスコークリエイションインドネシアの代表として企画、生産、営業、現地スタッフの育成――など多岐にわたる業務をこなす。時には「英語で感情を爆発させながら」、時には「ぬいぐるみのバティックを作って癒やされながら」、インドネシアで奮闘している。
(小坂麻里子)
好きだったのでなく
金井さんは群馬県出身。転職で日系の広告代理店に現地採用されたのを機に、インドネシアに移住した。
「広告代理店勤務でよくあることだが、自分で自分の商品をプロデュースしたくなった」ことから、2年半勤めて退職。
バティックの事業を進めていたのは友人だった。やむを得ない事情で帰国することになり、金井さんが引き継ぐことになった。
バティックが好きだから、というスタートではない。「むしろ柄物は好きじゃなかった。派手だな、と思っていた」という。
だが、実際に工房に行き、バティックに関わるうちに「沼にハマった」という。「日本人の発想にはない自由な色、柄の組み合わせにクリエイティビティーを感じる。時代や地域で異なる特徴もひも解いていくと面白い」。精密な模様を表現する技術を残したい、バティックを着てみたいと思えるような商品を届けたい。そんな思いからバティックの直営店「ロウバティック」をオープンさせた。
海外で起業し、経営するのは簡単なことではないだろう。ただ、「海外も視野に入れると自分に合った環境があるかもしれない。忍耐力は必要だが、努力すれば自然と周りも集まってくる」と語る。
一番大変だった時期を聞くと、しばらく考えて「今」と返ってきた。縫製、マーケティング、SNS発信、経理などを担うスタッフを7人雇用している。代表として、スタッフを養う売り上げを確保しなければならない。頑張っているスタッフには昇給もしてあげたい。今後はより販売力を高めるため、マーケティング調査、分析に力を入れる。
ブランドとの協業も
ロウバティックはバティックのセミカスタムオーダー、既製服、雑貨小物類を販売する。既製服は約6000~8000円、セミオーダーは生地によるが1万円前後で仕立てる。小物が人気でハンカチ、ポーチなどがよく売れるという。一部卸先とEC販売があるが、店舗での直販がほとんどの売り上げを占める。
客層は7~8割が日本人。現地に駐在している人や帯同する家族が帰国時の土産として購入するケースが多いという。
店舗はジャカルタから約10キロ離れたガンダリア地区に位置する。おしゃれなカフェがあり日本人が多いエリアだ。移転を経て、合計5年弱が経つ。
バティックは産地の一つであるジョグジャカルタの工房で仕入れている。店舗の奥に縫製工房を構え、金井さんがパターンを作成、スタッフが裁断、サンプル縫製を行い、提携している仕立て屋に既製服の量産を依頼している。約2メートルのバティックを効率よく裁断し、柄を合わせるのは「とても大変」。スタッフに教えるのも一苦労だ。
今年8月、開発地区のチカランに2号店をオープンした。交流を目的に親子で楽しめるワークショップも始めた。
アパレルブランドと協業しており、毎シーズン発表している。バティックという染色織物の手作業による不確実性、温かみを理解し、良いと感じてくれる企業からのオーダーや協業にも前向きだ。