松本一矢さんが手掛けるアクセサリー「ichiya」(イチヤ)は、動物などを細部までこだわって表現するデザインと立体造形が特徴です。ヒコ・みづのジュエリーカレッジを卒業後に創業。商業施設の催事などで販売し、今年で10年目です。他者との関わりを通じて自分の得意なことを明確にし、事業に生かしています。
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デジタル技術で緻密に
松本さんは約7年前に足の難病を患い、長時間の立ち仕事が困難になったため、イチヤを一時休止しました。4年前に手術をして回復し、好きな方向性でやっていこうとゴシック&ロリータのデザインで再開。ゴスロリ市場に販売のコネクションはなく、原宿や大阪の有名な即売イベントに出店し、自らが販売、接客します。当初はウサギや猫のかわいいモチーフを扱い、反応は良かったのですが、爬虫(はちゅう)類や虫などダークモチーフも求められていると把握し、幅広く揃えています。

緻密(ちみつ)な物作りの背景には、最新のデジタル技術があります。休止中にOEM(相手先ブランドによる生産)業務に携わり、デジタル造形技術を習得しました。国内大手玩具メーカーの立体チャームなど、複数の製品で経験を積み、合理的で柔軟に修正対応できる利点を実感。4年前に3Dプリンターを導入し、従来のワックス型鋳造から、デジタルの造形に移行しました。CAD(コンピューターによる設計)と彫刻のソフトウェアを使ったモデリングによって、精巧で複雑な形を実現しています。
この技術を生かしてOEM事業の「イチヤクリエイターズラボ」を始めました。アパレル企業や個人作家、キャラクターを扱う企業などのアクセサリー製作がメインです。他社では敬遠されがちな複雑な造形の依頼もなるべく断らないスタンスです。「それによって自分の技術が深まり、経験も蓄積される。レベルアップしていくのが楽しい」そう。培ってきた知見を元に提案し、依頼者と一緒に良いものを作っていきたいと話します。
仲間と共に出店
23年からはゴシック、ロリータ、カワイイ系の作家による販売イベント「デコレーション☆パレード」を主催しています。企画・運営は松本さん主導で、販売や情報発信は外部スタッフと連携しています。25人の出店者でスタートし、今年5月に開催した4回目は43人が出店して盛況でした。新宿マルイアネックス1階の立地を生かし、入りやすい雰囲気を作って新規顧客も取り込んでいます。7階に集積されたロリータ系の店の利用客が立ち寄ってくれ、インバウンドの反応も良いそう。常連客も付いて「楽しんでいる姿を見るのがやりがい」だそうです。他者と関わり、求められることを実現していく姿勢が、ブランドの成長を支えます。

■ベイビーアイラブユー代表取締役・小澤恵(おざわ・めぐみ)
デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。