人工クモ糸×GW、実用化プロジェクト

2015/10/16 06:24 更新


 世界で最も強靭(きょうじん)な繊維とも言われるクモの糸。それを人工的に量産し、スポーツアパレル分野で共同で商品開発するプロジェクトが始まった。独占的業務提携を交わしたゴールドウインとスパイバー(鶴岡市)が、16年中の商品化を目指す。

 スパイバーは、人工クモ糸「クモノス」の量産化に成功したベンチャー企業。クモの糸の主成分のタンパク質(フィブロイン)を微生物の発酵により生成し、それらを紡糸・加工する技術を確立した。欧米を中心に注目されてきた技術だが、量産化は世界初とされる。

 特徴は重量比で鋼鉄の340倍という強靭さや、ナイロンを上回る伸縮性。石油化学原料のような枯渇資源に頼らず、サステイナブル(持続可能性)な新しい繊維として注目されている。既存プラントでアミノ酸の配列を組み替えるだけで、使う用途に合わせて強度や伸度を変えられるため、設備投資が少なくて済む利点もある。このため、普及すれば市場性は高いとされる。

 ただ、普及に不可欠とされる、1㌔当たり100㌦を下回るコストで原材料を作ることに難点があった。しかし、スパイバーは量産化に取り組み始めた08年比で生産性を4500倍に高め、生産コストも5万3000分の1に引き下げることに成功。「『100㌦バリア』突破のメドが見えてきた」(スパイバーの関山和秀代表執行役)という。

 同社が見据えるのは、①アパレル②自動車などの輸送機器③メディカルデバイス分野、での活用。アパレルから商品化を始めたのは、安全性の評価などを要する②、③に比べ事業化に時間がかからないことと、機能性が求められるアウトドア分野は環境保護意識の高い消費者が多く、素材への共感が広がりやすいためだ。

 ゴールドウインはクモノスに可能性を感じ、スパイバーによる第三者割当増資を引き受け、1年分の純利益に相当する30億円を出資した。同素材を使って相反するような機能を両立させ、主力のアウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス」で「ベースレイヤーからアウターまでシステム化されたものを作りたい」(渡辺貴生取締役専務執行役員事業統括本部長)という。既にプロトタイプのアウタージャケット、ムーン・パーカを完成。担当者を山形のラボに常駐させる予定だ。

 もっとも、量産に向けた技術的課題は残っており、16年中の販売は「かなりチャレンジングな目標」(ゴールドウイン関係者)ともいう。「夢の繊維」として世界で研究・開発が続くクモの糸の商品化と市場確立で、日本が先駆けとなることができるか注目される。



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