【知・トレンド】危急の事業承継 産業界全体の課題に

2018/09/17 06:30 更新


【知・トレンド】危急の事業承継 産業界全体の課題に 経済の持続的発展に不可欠 真価問われる企業価値

 日本の産業界全体として中小企業、小規模事業者の事業承継が大きな問題になっている。ファッション産業も同様で、後継者がいないことで廃業する事業者は多い。事業承継が大きなテーマに上がるのは、中小企業が圧倒的に多く、産業や地域経済を支え、雇用の受け皿になっていることが背景。経営者の高齢化も進んでいるため、国、自治体なども様々な支援策を打ち出している。焦点は、承継する企業の価値をどれだけ上げられるかに尽きる。

(古川富雄)

待ったなしの状況

 中小企業庁によると、中小企業は日本の企業数の約99%、従業員の約70%を占める。単に数が多いだけではなく、独自の技術やサービスを持つ企業も多い。こうした企業が廃業、淘汰(とうた)されるとバリューチェーンが寸断され、持続的な物作りができなくなることもある。「国として中小企業の成長を後押しし、未来に承継していくことは日本経済が持続的な発展をするのに必要不可欠」と位置付けられている。

 中小企業の置かれた現状はかなり厳しい。「中小企業白書」(16年版)によると、99年から15年までの17年間で中小企業は約100万社減少。特に08年のリーマンショック後、その傾向が顕著となった。95年は47歳前後が経営者年齢のボリュームゾーンだったが、15年には66歳前後となった。引退年齢は67~70歳が多いため、事業承継は待ったなしの状況となっている。

 事業承継は通常、①親族内承継②従業員承継③社外承継――と三つのパターンに分けられる。親族内承継は最も一般的な形だが、息子など親族が後を継ぎたがらない、経営者も子に承継させたくないとするケースが増えている。従業員承継は親族以外の役員や従業員が引き継ぐもので、近年増加傾向にある。社外承継は社外に株式や事業を譲渡するもので、親族や社内に後継者がいない場合活用される。これらを扱う仲介業者が増えていることから、ケースが目立つようになっている。

事業承継者の有無

後継ぎ支援団体も設立

 いずれの形態をとるにしても、ことは簡単には進まないため、国、地方自治体、商工会議所などが支援措置をとっている。中小企業庁の「事業承継補助金」は中小企業の新しいチャレンジを支援する制度だ。「経営者交代による承継の後に新しい取り組み」「事業再編・統合後に新しい取り組み」をした承継者に経費を補助する。15年4月から始まり、今年12月末までに承継する案件を対象とする。

 これまでは親族内承継であれば、利益を減らして株価を下げて贈与するといった手法がとられてきた。税制による支援では、18年4月から事業承継税制が大きく変わった。従来は納税猶予の対象になる株式数は3分の2の上限、相続税の猶予割合は80%だったが、株式数の上限を撤廃、納税猶予割合も100%とした。また、従来承継後5年間平均で雇用の8割維持が求められ、未達成の場合は猶予された贈与税と相続税の全額納付が必要だったが、雇用条件を実質的に撤廃、未達成でも猶予を継続可能にした。

 各地方でも取り組みは活発だ。大阪商工会議所は「人手不足」と「事業承継」に関する支援パッケージを18年度から「精力的に進める」としている。今年から3年間で府下1万社の承継を支援する。4万社にアンケートを出し、各社のニーズに合った対応をとるとしている。

 6月20日には、全国初という「アトツギ特化型ベンチャー支援」を目的とする一般社団法人ベンチャー型事業承継(山野千枝代表理事)が設立された。主旨に賛同する民間企業の経営者が中心となり、後継ぎならではの課題を解決するサービスを提供する。

 事業承継で最も問題になるのはその企業にどれだけ存在価値があるかということ。社会に有用で、引き継ぐべき事業があるかが問われる。

 IT企業などに勤務後、家業の生地卸、山冨商店(大阪市)を引き継いだ濱本隼瀬専務は、ネット販売主力に切り替えて業績を伸ばしている。「会社には強みが眠っている。一から新しいことを始めるより、今の時代に合わせたことを掛け合わすとおもしろい化学反応を起こす」と話す。承継を考えている経営者は今一度、経営資源を見直し、どんな価値を提供できるか真価が問われている。

大阪イノベーシッョンハブが開いている家業イノベーションイベント「アトツギソン」

(繊研新聞2018年7月2日付けから)



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