【コア&モア「ザ・ノース・フェイス」強さの秘密㊤】本格機能を街着にも 信頼築き周辺領域に波及
ゴールドウインが製造・販売する「ザ・ノース・フェイス」(TNF)は、アウトドアブランドながら、ファッションアイテムとしても人気のブランドだ。
同社が扱い始めて40年経つが、近年さらに勢いを増している。ブランドの根幹(コア)を磨き上げながら、派生する領域(モア)に積極的に挑む。ここに、強さの秘密がある。
(杉江潤平)
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◆極力シンプルに
前期比24.9%増の494億円――18年3月期決算で、TNFを核とするアウトドア関連売上高は大幅に伸びた。厳冬でダウンウェアを中心とした単価の高い重衣料が予想以上に売れたとはいえ、目を見張る水準だ。
この勢いは、販路・年齢層を問わない。繊研新聞社の17年度「百貨店バイヤーズ賞」「テナント大賞」「キッズファッション賞」贈呈式では、TNFが3部門で同時受賞した。それぞれ百貨店、ディベロッパー、専門店などが選ぶアワードで、販路とターゲットの幅広さを改めて示した。繊研新聞社としても3冠の贈呈は初。
好業績を同社はどう見るか。TNF事業を統括する森光執行役員は「ずっと右肩上がりだが、特にこの3年間の伸びが大きいのは、近年講じた施策が当たったためではなく、過去様々な施策を積み重ねてきたことが奏功しているため」と分析する。
同社が脈々と続けてきた施策の一つが、本格的なアウトドア商品を作りながら、そこで培ってきた技術や機能を一般品にも落とし込み、普段使いの需要を開拓すること。ポイントとしているのが、一般品の開発であっても、素材特性や独自の設計技術を生かすため、デザインを極力シンプルにし、汎用性を出すことだ。それが結果として、かっこいいタウンウェアとして消費者の目に映り、多くの人々が着こなしに取り入れやすくなっている。
例えば、昨秋冬に売れ筋となったデナリジャケットは、もともと探検時に使用するため、アウターシェルと接続可能なフリースジャケットとして89年に開発した。体にフィットするようサイズ感を現代風に修正するなどして再び販売すると、その優れた保温性や、フリースを補強する布帛の切り替えデザインが改めて注目され、人気を呼んだ。
◆普段使いもできる
こうした開発思想は、ブランドとロゴに対する信頼感を育んだ。森氏は言う。「シビアな環境で命を守るために開発したハイスペックな機能を一般的な商品に落とし込むと、普段の生活がより快適になる。一般のお客様にはブランドロゴが付いていれば、機能的に担保されクールだという『理由のある信頼感』につながった」
ブランドへの信頼度が強まった結果、主力商品だけでなく、パフォーマンスラインやキッズといった周辺領域にも勢いが派生した。例えば、ランニングウェアなどを集積し、15年に導入したばかりの商品群「マウンテンアスレチックス」は前期、売り上げを50%拡大。キッズも30%伸ばし、アパレルにおける売上高構成比を約10%に高めた。
ザ・ノース・フェイス ダグラス・トンプキンスが1966年に米サンフランシスコ・ノースビーチ地区、コロンバス通りにマウンテンスポーツの道具を専門に扱う約100平方メートルの店を出したのが始まり。68年にハップ・クロップが買収し、オリジナル製品の生産を開始した。ゴールドウインは78年に同ブランドの販売を開始。94年には日本及び韓国における商標権を取得した。
【繊研新聞社の3賞で初の3冠受賞】売り場の声
・アウトドアブランドでありながら、街でも着られる幅広い品揃えが高評価の理由。「アウトドアヴィレッジ」で売上高1位。(昭和飛行機工業リアルエステート事業部副事業部長兼賃貸施設1部部長高橋佐登志理事)
・売り上げ、人気とも館を代表するテナントの一つ。当館開業以降、売り上げはずっと伸びている。(三菱地所リテールマネジメント運営本部運営2部MARKISみなとみらい飯島香枝館長)
・上層階に位置しながら好調で、集客の中心役を担う。アウトドアブランドながら、都市型のお客様にもうまくマッチングしている。(仙台ターミナルビルショッピングセンター事業本部エスパル仙台店長小原能和取締役)
・「アウトサイド・ザ・ボックス」におけるTNF売り上げは、毎月計画を20%以上上回る。店内での売上高構成比も50%を常時維持している。内装、ディスプレー、接客スキルが高い。(メガスポーツ営業本部ライフスタイル推進部高橋武将部長)
(つづく/繊研新聞本紙5月23日付)