【記者の目】グローバル大手小売りのサステイナビリティー デジタル化と並ぶ経営課題に 消費者の意識変化へ対応急務
グローバル大手小売りの今後の事業拡大を支える両輪は、デジタル化とサステイナビリティー(持続可能性)だ。特に環境や社会への負荷低減など、サステイナビリティーに関連する活動は、地球規模での気候変動や災害が増える時代にあって、消費者から選ばれ続けるために必須の条件となりつつある。ファーストリテイリング、インディテックス、H&Mの最新の取り組みから、なぜ今、サステイナビリティーが、ファッション企業にとって重要な課題なのかを見る。
(柏木均之=本社編集部大手SPA、セレクトショップ担当)
資源消費型の限界
10月14日、台風19号が過ぎ去った東京・有明コロシアムでユニクロがチャリティーテニスマッチ「ユニクロ・ライフウェアデイ・トーキョー」を開催した。ブランドのグローバルアンバサダーを務めるロジャー・フェデラー選手や国枝慎吾選手らがエキシビジョンマッチを行った。
収益の一部は、知的障害の人たちのスポーツを支援する組織や、環境保全に取り組むNPO(非営利組織)などに寄付するほか、試合で選手たちはリサイクル素材を使用したウェアを着用した。8000人の来場者に対し、会場の一角にはユニクロのサステイナビリティーへの取り組みを紹介するブースを設けた。
「瀬戸内オリーブ基金」への支援に始まり、9月に発表したばかりのペットボトルを再生したポリエステル素材や回収した自社のダウン製品の羽毛を再利用した製品の生産、販売する取り組みなど、自社のサステイナビリティー活動のこれまでの歩みを一堂に集め、展示した。
ファーストリテイリングは01年に社会貢献室を設置、16年には部署を「サステイナビリティ部」に改称し、店頭での使用済み商品回収や難民支援、主力取引先縫製工場の情報開示など、年を追うごとに活動の範囲を広げてきた。力を入れる背景には、社会のサステイナビリティーへの関心度が増していることがある。
柳井正会長兼社長は「世界には貧富の格差の拡大、難民問題、人種差別、気候変動など深刻な問題が山積し、資源大量消費型の社会に対する人々の疑問と不安感がある」と見る。そうした中、ファッション企業は「長く継続できる社会実現のためにもサステイナブルな企業であることが何より重要」と言う。
同社に限らず、売上高2兆円を超えるグローバル大手小売りの場合、国連のSDGs(持続可能な開発目標)などの指標は当然重視している。だが、それだけでは顧客にサステイナビリティーに自社がどれだけコミットしているか、伝えきることは難しい。日々の商売の中で、具体的に自社の取り組みついて知ってもらうための努力が成長性の維持には欠かせない。
店頭で直接消費者に
消費者の認知を高めるためにグローバル大手小売りが力を入れるのが、サステイナビリティーに配慮して作った自社商品を店頭で消費者に分かりやすく伝えながら売る活動だ。インディテックスの「ザラ」は店頭で、環境に配慮して生産した商品の販売やそれらに使った素材の展示を開始した。
昨年、世界で初めて、六本木の期間限定店でオーガニック繊維や再生繊維の利用、サプライチェーン全般で水や電力の消費を抑え作ったウェア「ジョインライフ」コレクションを展示したのを皮切りに、今年も9月に渋谷店と新宿店で再生デニムを用いたパンツやブルゾンなどを展示、販売した。
H&Mも環境に配慮した素材を使った「コンシャス・エクスクルーシブ」コレクションを毎年発表している。持続可能な条件で生産された素材の使用を30年までに100%にする目標を掲げる同社は、サステイナブルな素材で作った商品を定期的にコレクションとして企画し、実際に消費者に売ることが、自社の活動の認知を広げる手段として効果が高いと考えている。
ユニクロがダウンやポリエステルなどをリサイクルして作った商品の販売を本格化するのは20年からだが、チャリティーイベントでは、ダウンに関しては回収作業を機械化し、手作業の負担を減らしている点やペットボトルのリサイクルでは、異物混入や黄ばみの課題を解決する技術についても来場者に伝えた。
世界中に市場もサプライチェーンも広げているグローバル大手小売りにとって、消費者の意識が変化する中で、デザインや品質、価格のバランスの良さだけを強みに成長を目指すことは難しい時代になった。
資源を浪費せず、生産者に不当な労働を強いることもなく、商品を作っていることをこれまで以上にはっきり示すことはますます重要になっている。そしてそれはグローバル大手小売りばかりではなく、日本の多くのファッション企業にも突きつけられている課題である。
柏木均之=本社編集部大手SPA、セレクトショップ担当
(繊研新聞本紙19年10月21日付)