コロナ禍で革靴の国内生産の拠点が今までにない危機的状況に陥っている。4~5月に小売店が休業して以降、消費の戻りが鈍く、在庫過多で注文が入ってこない。東京・浅草では、メーカーの廃業や経営統合が相次いでいる。一方で、ピンチをチャンスに変えようとする動きも出てきた。
(須田渉美=本社編集部レディス担当)
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革靴の生産統計によると、今年10月時点でも紳士靴の生産足数は前年比63%、婦人靴・子供靴は72%の水準にとどまる。靴資材メーカーの村井は「靴メーカーへの供給は21年春夏までは55~60%の水準が続く見通し」だ。ビジネスシューズやパンプスは、20年春夏商品の一部を持ち越す企業が多いほか、百貨店販路で在庫を切らさないように積むビジネスモデルが尾を引いて、秋冬物の生産を見送ったところもある。
コロナ前に戻らない
一方、製造小売り型の専門店企業は、在庫を持たずに少量生産を繰り返し、「2週間などの納期で材料を発注する体制を取っているので、比較的回復の戻りが早い」という。大手セレクトショップに納品しているメーカーには、カッターシューズを中心に1型300~800足の注文が小刻みに入ってきている。
百貨店販路でも季節商品への期待はある。「5月以降に販売するサンダルの追加生産を検討している」(モーダクレア)、「秋冬もブーツが売れたので21年春夏のサンダルの生産数は増やす予定」(卑弥呼)と明るい兆しがある。
ただ、こうした革靴の中高級品市場の消費が、コロナ以前の状況に回復するとは思えない。当面、観光客需要に期待は持てないし、勤務スタイルが多様化しているなかでは、新しい様式のMDやサプライチェーンを踏まえて物作りをデザインする必要がある。
環境負荷低減に歩み
以前のように数が売れないなら、何かしらの付加価値を持って単価を上げるしかない。今は、サステイナブル(持続可能)の取り組みではないだろうか。食肉の副産物である皮を利用する革製品は、そもそもサステイナブルだ。そのことすら、最近までほとんど一般消費者に正しく理解されていなかった。
ワシントン靴店は19年秋冬物から、皮革・革製品の国際環境基準監査団体レザー・ワーキング・グループ(LWG)の認証を受けた革をPBのパンプスなどに採用している。百貨店向けでも、卑弥呼が来春から一部の商品にLWG認証の革を採用し、取り組みを紹介するウェブページも作るという。LWGが一般消費者に認知され、小さな積み重ねが、大きな流れになる日はそう遠くない。
さらなる環境配慮型の物作りに向け、村井は専用の靴資材を揃えている。コロナ禍で公の発表が見送りとなっているが、今夏、生分解性を持つ先芯とカウンター、中底などを製品化。環境対応の開発が進むイタリア製の材料を導入し、日本の靴作りに必要な仕様、品質基準で加工している。特殊なコットン織布を使った先芯やカウンターは熱で融解する接着剤が塗布され、熱プレスで表革に接着でき、生産性も上がる。セルロース繊維を使った中底は、スチール製シャンクを入れなくても強度は上がり、水濡れに強い。ただ、価格は一般的な資材より20~30%高く、中底は倍近くで即採用とはいかない。
しかし、少しづつでもチャレンジする価値はあるだろう。1品番でも日本で初めて「生分解する靴」を商品化できたら、企業やブランドのイメージ向上につながる。また、履き古した靴の回収に取り組んでいる専門店であれば、底材を除いたアッパーのみが生分解する商品でも、廃棄物の分別がしやすく、環境負荷の抑制へと発展させられるのではないか。「売れる売れない」の発想から離れて、環境配慮に向けて意識を共有するキーアイテムをMDに組み入れる努力はしたい。
もう一つの切り口は、デジタライゼーションだ。人の手を使う物作りそものもは変わらなくても、過剰在庫など無駄を省くことで、企業経営は大きく変わる。
大手皮革卸の丸喜は、昨シーズンから一部の素材の詳細をQRコードで参照できるようにしている。今後は、在庫を管理しながら、取引先の店頭情報を共有するシステム化を進めたいという。在庫を極力持たず、期中に追加発注を繰り返す専門店や百貨店卸との間で「売れている商品の素材があるかオンタイムで把握できれば追加生産を早期に判断しやすい。当社は在庫調整や次の素材提案にも反映できる」。中長期的には可能な限りで靴メーカーやタンナー、革の染色加工の企業とオンラインで情報共有する形を築くことで、様々な環境や事態に組織力で対応したいという。
須田渉美=本社編集部レディス担当
(繊研新聞本紙21年1月4日付)