富士市の東海染工 「かぐや姫の里」が新規事業 

2019/12/06 06:28 更新


 繊維雑品の染色加工を主力とする東海染工(静岡県富士市、普代昌文社長)は、新規事業として竹の新しい染色加工を始めた。油分の多い竹はそのままでは染まりにくく、通常は油抜きしてから染色するが、同社は油を残して染色する技術を確立。竹本来の自然な艶がそのまま残るのが特徴だ。「かぐや姫伝説のまち」である富士市を、「竹を通じて盛り上げたい」(普代研三会長)という。

(神原勉)

 かぐや姫伝説は日本各地に残されているが、富士市ではかぐや姫は月ではなく富士山に帰って行ったとされ、竹採りの翁(おきな)をまつる神社や、翁夫婦とかぐや姫が暮らした家が残されている。「かぐや姫が育った里」だけに、豊かな竹林が広がる。

領域こだわらず

 同社が竹の染色を始めたのは10年ほど前。普代会長が富士市から「かぐや姫の里として竹を使って何かできないか」と持ちかけられたのがきっかけだ。竹灯篭(とうろう)を染めてはみたが、竹の表面の油が邪魔をして染めるのに手間がかかり、油を落としてしまうと艶も失われるのが不満だった。その後、知り合いから竹の一輪挿しの染色を頼まれたこともあって、竹の染色に本格的に向き合った。

染色した竹の一輪挿し。美しい艶が特徴だ

 富士市吉原地区はかつて靴ひもの産地として栄え、靴ひも工場が建ち並んでいた。同社は靴ひもの染色工場として大正時代に創業。現社長は4代目だ。別売りだった靴ひもが靴と一緒に売られるようになり、産地の靴ひも生産が減少する中で、同社はひも地の染色技術を進化させ、手芸用のひもやファスナー、バッグなどに広げてきた。天然繊維、雑材から化合繊まで繊維の種類は問わない。

 全国の産地で分業が崩壊する中、同社は取引先に依頼され、小幅織物向けの糸ののり付け、帽体の成型など、廃業した工場の設備を受け継ぎ、染色以外の加工も手掛けている。主力とする領域にこだわらず、様々な分野に挑戦し、新しい技術を開発してきた。何度も環境の変化を乗り越えてこられたのは、そうした精神が引き継がれてきたからだ。

竹の染色を担当する友田聖乃さん(右)と普代会長

逆転の発想で

 竹の染色は従来のやり方では艶が失われるため、独自の方法で挑んだ。様々な手法を重ねるうち、竹の油を染料と融和させる方法にたどりついた。染色前の油抜きも、染色後の光沢剤の塗布も不要。ぬくもりのある竹本来の自然な光沢が魅力だ。

 対光堅牢度の弱さに改善の余地はあるが、どんな色でも染めることができ、室内での使用は問題がない。灯篭や一輪挿しのほか、防災用のセンサー付きライトのカバーなどの製品化を進めている。

 竹の新しい染色方法を開発できたのも、本業で培った技術や設備があってこそ。「無理」と諦めてしまっては、前には進まない。やっかいものとされた油を「逆に利用してやろう」という発想が成功に結びついた。

センサー付ライトのカバー


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