《視点》時間が育てる価値

2017/05/18 04:00 更新


 地元には小さい山がある。春を迎えると山全体が桜色に染まり、初夏には木々がブロッコリーのように膨れ上がる。そんな自然の移り変わりに癒やされてきたが、ここ10年ほどで多くの木々が伐採された。山の上にある寺は、人が集まる明るい寺を目指して木を切り、空いたスペースに墓を作った。木々に覆われた厳かな山は、あっという間にクリーンになった。

 整備された山は、広報的には正解だったのかもしれない。多くの参拝客が訪れるようになり、名前は以前よりも知られるようになった。だが、魅力は半減した。寺は建立700年以上。空襲などを受けながらも、自然とともに時間をかけて築いてきた景色には、風格があった。

 そんなことを改めて思ったのは、先日の夕暮れ時だ。代官山の旧山手通り沿いを歩いていると、カフェ・ミケランジェロの木々が夕日に照らされて、いつも以上に大きく見えた。店のなかを貫く大木だ。この木がなかったら、この店の価値は今とは違っていただろう。時間が育てる価値がある。移り変わりの早いファッション業界でもそんなエターナルな感覚が、今こそ求められているように思う。(規)



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