《視点》捨てられる服

2018/08/02 06:22 更新


 16トンの膨大な古着の山。湿った布は異臭を放ちながら、クレーンで無造作につかみあげられ落とされる。12年に妻有トリエンナーレで見たクリスチャン・ボルタンスキーの巨大インスタレーションだ。人間の「生と死」や「記憶」をテーマにした大作に、漠然とした不安をかき立てられた。

 それから6年後。7月3日付の朝日新聞の1面トップに、「捨てられる新品の服、年10億点」という記事が掲載された。低賃金労働によって可能になった低価格。大量生産が進み、服の価値は下がって廃棄量が増えた。その現実は、アパレルに携わる人にとって周知のこと。だが、ファッションビジネスの成長を一番に考えるあまり、二の次にしてきた現実でもある。私自身、問題意識を持ってきたつもりだが、改めてガツンとやられた。

 冒頭の古着の山。あの光景はまさに現実だ。それが世界中に点在しているかと思うと背筋が凍る。サステイナビリティー(持続可能性)が注目される今は、その現実に向き合う絶好の時。作る側も着る側も、一度立ち止まって考える時期に来ている。

(規)



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