少し前に海外の方と日本のファッション市場についてディスカッションする機会があり、「生産コストが上がっているのに、なぜ日本では小売価格が上がらないのか」という質問を受けた。
生活者の賃金が上がっていない、OEM(相手先ブランドによる生産)メーカーが受注をとるため安値競争をしているなどあれこれ背景を説明したうえで、日本には「器用貧乏」という言葉があると紹介した。
「器用に何でもこなせるが大成しない」というのがもともとの意味だが、日本の繊維・ファッション産業にあてはめると、生地や縫製の国内企業は、客先からの高い品質要求に応え、小ロット・短納期対応するといった、とても丁寧な仕事をしているのに、もうかっていないという現状がそれにあたる。
先日、ユニクロが今秋冬の商品を値上げすると発表し、生産者からは「これがアパレル値上げのきっかけになれば」と期待感が高まっている。生産コストの上昇を小売価格にきちんと転嫁する、あるいは川上~川下が連携してコスト吸収の知恵を出し合うことができないものかといつも感じるが、一方で生産者自身も器用貧乏から脱する思考が大事だろう。国内で物作りができなければ困るのは誰か。物作り企業こそ、したたかに生き残る戦略を磨かなければいけない。
(恵)