26年4月に校名変更したヴォートレイルファッションアカデミー(旧大阪文化服装学院)。同校の豊田晃敏理事長、杦山晶CCOと、栗野宏文ユナイテッドアローズ上級顧問がこのほど、「世界を見据えたファッション教育」について鼎談(ていだん)を繰り広げた。世界の教育潮流を踏まえながら、作品づくりの手前にある深層探求の重要性や、世界で活躍するクリエイターに求められる視点について語り合った。

独自性を新校名に込める
――まず校名を変更した狙いについて。
豊田 当校が洋裁学校としてスタートした頃は、同様の学校が全国に1000校ほどあったそうだ。その後、多くの学校が時代の変化に合せてファッション教育へと軸足を移したが、少子化や進学環境の変化もあり、服飾専門学校の数は大きく減少している。
こうした環境変化の中で、98年からイタリアのポリモーダと連携を深め、08年にスーパーデザイナー学科を立ち上げるなど、欧州と日本の強みを融合した独自の教育メソッドを磨き上げてきた。だが、旧校名では、いくら独自性をアピールしても十分に伝わらず、東京の文化服装学院の大阪校であるという印象を持たれることが少なくなかった。
そこで、当校の教育理念や目指す人材像を明確に発信するために、思い切って校名変更を決意。ヴォートレイルファッションアカデミーは、ヴォーグ(ファッション・流行)とトレイルブレイザー(先駆者・開拓者)とを掛け合わせた造語で、時代の開拓者となるトレンドセッターを育成していくという思いを込めている。

栗野 校名変更をはじめ、CI(コーポレートアイデンティティ)を刷新した理由はそういうことだろうと想像していた。文化服装学院というブランドを外してまで新たな一歩を踏み出すのはすごいこと。3月の「トラノイ・トーキョー」に出展したスーパーデザイナー学科生の6ブランドを見たが、確かに見応えがあり、面白いブランドがあった。これは杦山さんが直接指導しているのだろうか。

対話を重ねて説得力あるものを
杦山 ええ、08年にポリモーダに留学し、リンダ・ロッパらから学んだ経験を、スーパーデザイナー学科やファッション・クリエイター学科に生かしている。コレクション制作については、学生とデザインプロセスについてかなりの時間をかけて話し込む。デザインというか考え方を教えている感覚だ。例えば「今ってそれをやるべき時代感なのか」という風に、対話を重ねる中で、考えをまとめる作業を重視している。

栗野 アントワープ王立芸術アカデミーでリンダ・ロッパに学んだ人から聞いたが、授業ではなぜファッションをやっているのか、なぜそれを作りたいのかなどの問いかけがなされ、どんどんと奥へ奥へと降りていく感覚だ、と話していた。場合によっては、個人的なことまでとことん突っ込まれることもあるぐらいだそうだ。
だけど、ブランドって最終的にはその人が生み出したもの。元がしっかりしていなければ、本当に説得力のあるものは生まれてこないと思う。それなのに、昨今はデジタルやSNSを駆使し、カット&ペーストのように簡単に服作りしてしまっているデザイナーも少なくないのでは。
問われる視野の違い
――日本と海外とで違いを感じることは。
杦山 ファッションデザインコンテストで違いを実感した。日本は作品を一つのスタイリングだけで発表するケースが多いのに対し、海外では複数のルックを通じてコレクションとして構成している。ここに大きな差を感じた。これからあるべき教育という観点でも、作品をコレクションとして構築し、プロセスを含め提示することが重要ではないかと考えている。
栗野 一つのルックだけでは作り手の個性や何が優れているのかが分からないのでは。アントワープ王立芸術アカデミーで96年から計9回審査員をしたことがあるが、1年生から4年生までがランウェーをしていた。2、3年生は6~8体、4年生は10~12体を制作していた。
4年生はランウェーだけでなく、インスタレーション形式、つまり静止した状態でのプレゼンテーションもする。そして会場には、自身が何からヒントを得たのかなど、その人のこれまでのルーツが分かるリファレンスブックが置いてあった。これがあることにより、見る側も作り手をトレースしやすかった。このリファレンスは、セントマーチンズでも重要視されていて、学生は図書館やマーケットリサーチに行く時間がすごく多いと聞いた。
豊田 日本のクリエイター育成に携わっていると、多くが割と等身大で物事を見ている感覚がある。ポップカルチャーやエンターテインメントを好きな人が多く、SNSから得られる情報で視野がすごく狭くなってしまっているのでは、という危機感を持っている。対して海外は、社会や経済など世の中を見てコンセプトへと置き換えている。こうしたギャップから、どうしても日本のものが子供っぽく見えてしまうことがある。自分たちがこの差を縮めていく教育をしなければ、と考えている。

海外有力校で学んだ教員が複数
――教員に違いはあるのだろうか。
栗野 アントワープ王立芸術アカデミーにいたことのある教員は、現役感をすごく大事にしていた。同校でパターンを教える一方、会社を作ってアントワープのデザイナーのパターンを手伝うなど、常に社会との接点を求めて動いていた。
豊田 日本の学校には現役で実業をしながら教員をしている人は決して多くない。当校では、優秀な卒業生をそのまま教員として採用するのではなく、一度社会で経験を積んでもらうことが重要だと考えている。 杦山のように実業をしながら教員をしている人材もいる。また、教育の質をさらに上げるため、教員をポリモーダの修士課程に派遣し、欧州のデザイン手法や考え方を学ぶ取り組みを進めてきた。杦山をはじめ、3人の教員が留学から戻ってデザインを教えている。
素材一つからこだわる重要性
――日本の若手デザイナーに対する世界の評価は。
栗野 LVMHプライズ・フォー・ヤングファッション・デザイナーで、23年に桑田悟史の「セッチュウ」、25年に大月荘士の「ソウシオオツキ」がグランプリを獲ってきたように、世界は間違いなく日本を見ている。今回は最終選考に日本人デザイナーが選ばれなかったものの、セミファイナルには2人がいた。今回は方向性がクラフツマン(職人)で、ファイナリストのブランドはほぼどれも手作業が入っていた。
豊田 テキスタイル産業をはじめとした日本の物作りは職人要素が強く、先行して海外に認知されている。今度はアパレル製品の分野でもさらに評価されるようになっていかなければ、と思う。その意味でもデザインが持つ役割は大きい。当校では積極的に産地研修を行っている。学生に素材一つからこだわることが大事だということを実感してもらうため。
世界を見据えた人材育成へ
――ヴォートレイルファッションアカデミーがこれから目指す方向性は。
豊田 学生が生み出す作品の質をもっと上げていきたい。例えばポリモーダの卒業コレクションは毎年ものすごいクオリティーだ。だいたい20人の学生が厳格に選ばれている。同じように厳しく選抜していくのが正しいのかどうかは思い悩んでいるところだが、本当に素晴らしいものを生み出せる学校を目指したい。
栗野 日本と違い、海外有力校のようにエリートを優先して育てていく方法もあるが、それだけが正解とも言えない。ただ、日本は優劣をもっとはっきりと付けてあげた方がいい側面もある。やり方次第だと思うし、結果として全体のボトムアップへと効果的につながっていく形を実現して欲しい。
豊田 栗野さんから「世界が日本のクリエイターに注目している」という話があったが、だからこそ学生には、早い段階からグローバルな視座を持ってほしい。日本で心地よくやっているだけでなく、世界を広く見渡しながら、自分自身を深く掘り下げ、独自の世界観を築いていくことが大切だ。そのための教育をこれからも追求していきたい。
プレスリリース:大阪文化服装学院がヴォートレイルへ校名変更
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学校法人 大阪文化服装学院 ヴォートレイルファッションアカデミー
企画・制作=繊研新聞社業務局