イタリアの高級糸からイメージを膨らませ、トップのみならずパンツやキャップまでニットで表現するウォーカーズ。著名ブランドに比べるとぐっと買いやすく、単店のショップ発ブランドながら認知度をじわり高めている。
店では布帛やシューズなど仕入れ商品も揃えるが、自社製品はニットのみ。「前職からニットに触って今年で40年。これからもニットにこだわりたい」とCEO(最高経営責任者)の笹岡昌平さん。消費者向けに5年近く販売してきたが、今年からは再び卸販売にも力を入れる。
(永松浩介)
飛び込みで販路開拓
笹岡さんは大学卒業後、ニットアパレルのカレッヂ・ルナーに入社、当時の〝プリコン〟ブームの中心ブランド「ティー・フォー・ツー」のディレクターとして活躍した。27年勤めた同社を退職した後はフリーランスで他社の企画などを手掛けていた。08年に自社ブランドを立ち上げたものの、11年の震災の影響で販売先が細り、売り上げは大きく落ち込んだ。
これからどうしようか迷ったと言うが、「自分も男だし、イタリア出張のたびにメンズ服をずっと見てきていいな、と。メンズの企画経験はありませんでしたが、思い切って挑戦することにしました」。ほどなくサンプルを作ってセレクトショップなどに飛び込み営業し、自力で販路を開拓していった。13年には東京・南青山に「ヴァンドリ」を開店した。
自社ブランドは「ブル・ブレ」とヴァンドリの2本柱。ブルー・ブリーズのイタリア語から名付けた前者はカシミヤやシルクなど高級素材を使ったベーシックな日常着で、後者はややトレンドを意識したもの。ブル・ブレに比べ、値段もやや買いやすい。
ユニセックスでの着用を想定しているが、2年前からは両ブランドでレディスの単独ラインも販売している。ショップオープンから店長である菊地陽子さんらが企画している。
こだわりは糸。夏以外のブル・ブレのコレクションの「売り」商品には、立ち上げ前からほれ込んでいたイタリア・カリアッジのカシミヤ・シルク糸「ジャイプール」を採用している。シルクが入っているため、「光沢があり都会的。日本の気候にも合っているんです」。
もう一つは綿糸で、同じくイタリアのエミル・コットーニの「Q380」。380番手糸という極端に細い糸4本をまとめたもので、丸い糸形状のため皮膚との接地面が少なく肌触りがいい。ラグジュアリーブランドが毎回多くを買い付けるため希少で、「日本で製品にしているのも少ないはず」という。糸値も高い。
ジャイプールを使ったタートルネックや丸首が4万8000~5万8000円、Q380を使ったポロシャツが2万~2万8000円と、同じ糸を使った欧州高級ニットブランドの半値ほどという。製品化は商社を経由せず、山形のニッターに依頼している。
365日SNS発信を
ショップは骨董通りのずっと奥のため、必然的に顧客商売となる。40~50代の男性が多いが、「エージレス、ユニセックスをうたっているため意外に幅広い」。当初は雑誌に広告出稿していたが、最近はインスタグラムやフェイスブックなどSNSで情報を発信。「1年365日、自分で身につけて投稿するのを課しています」。
秋にはショップの開店5周年を迎えるため、前回好評だったカスタムオーダー会を開く。過去の購入済み商品や店頭の商品、イベント用に企画したカシミヤ100%の手編みニット(10万円)に、アルファベットや数字をつける企画だ。
この5年は店での販売に注力していたが、今後は販売チャネルも増やす。営業担当を新たに採用し、卸販売や期間限定店の開設に力を入れる。
「自分たちが楽しみながらブランドが広がれば」と笹岡さん。常に意識しているという居心地のいい店には、用がなくても顧客が出入りする、さながらイタリアの家族経営の専門店のよう。「骨董通りで一番敷居が低い高級店を目指してますから」と笹岡さんは笑う。