家族の愛が溢れるバスキア回顧展(杉本佳子)

2022/04/15 06:00 更新


 ニューヨークのチェルシーにあるスターレット=リーハイ・ビルディングで、「ジャン=ミシェル・バスキア:キング・プレジャー」展が始まった。約1400平方メートルのスペースに200点以上の作品と遺品が展示されている。すべて、バスキアの家族が保存してきたもので、ほとんどが未公開作品。それ以外も、めったに公開されてこなかったものだ。それだけに、「家族との絆」が展覧会の大きなモチーフになっていて、通常の回顧展と異なる切り口に好感がもてる。

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 家族・親戚・家族ぐるみで付き合いのあった友人たちがバスキアについて話す動画がいくつか見れるのだが、その中で、「どんなに有名になり、どんなに絵が高い値段で売れるようになっても、しょせん彼は誰かの息子であり誰かの甥であり…」というセリフがある。「伝説的なアーティスト」の才能とレガシーもさることながら、どちらかというと家族に愛される1人の人間としてのバスキアをクローズアップしている。今でも彼を恋しいと思う親族たちの温かい気持ちが漂う、ちょっと癒しすら感じられる展覧会なのだ。


 幼少時を過ごしたブルックリン、ボーラムヒルの家の部屋を一部再現したインスタレーションもある。ノスタルジックな家具や調度品が置かれた部屋の壁には家族との写真が映し出され、当時バスキアが聴いていたジャズやソウルミュージックが静かに流れる。すぐそばに音楽ストリーミングサービスのスポティファイのコードが表示されていて、それをスキャンするとバスキアが子供時代に聴いていた音楽を聴ける仕組みもある。

 グレートジョーンズストリートにあったバスキアのスタジオを再現したコーナーでも、壁の一部をスクリーンにして、バスキアが絵を描いている様子を動画で流している。展覧会全体を通しても、臨場感の再現にデジタルをうまく活用している。その手法も一見の価値がある。

 バスキアは1985年、当時人気の高かったナイトクラブ、パラディアムのVIPルームのために2点の絵を描いた。その部屋も、動画とサウンドトラック含めて再現されている。当時を知る人にとっては、きっと懐かしい空間に違いない。


 1988年からニューヨークに住んでいる私にとっても、パラディアムは懐かしい場所だ。といっても、ナイトクラブに入り浸っていたわけではない。1993年から住み始めたアパートは、パラディアムのはす向かい。毎週金曜土曜は夜中まで嬌声が聞こえて眠れず、午前3時くらいにパラディアムから出てくる人々の喧噪で起こされることもあった。パラディアムが1997年8月にクローズした時は、正直ほっとしたものだ。それでもパラディアムの雰囲気を久しぶりに感じることができて、懐かしく嬉しい気分になった。ざっと見ても1時間から1時間半かかる、非常に見ごたえのある展覧会。機会があったら是非観に行くことをお勧めする。

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89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



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