卵巣がん早期発見研究資金集めにファッションショーも一役(杉本佳子)

2022/06/17 06:00 更新


 卵巣がんの早期発見を提唱する非営利団体「ティナズ・ウイッシュ」が6月2日、ニューヨークのセントラルパークにある著名なレストラン「タバーン・オン・ザ・グリーン」で、ファッションショーを含む資金集めのイベント「ランウエー・フォー・リサーチ」を行った。150人以上が参加し、14万5000ドルが集まった。

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 ティナズ・ウイッシュは、裁判官として長年活躍したティナ・ブロズマンさんが2007年に54歳で卵巣がんで亡くなったことに端を発している。卵巣がんは早期発見が難しいとされていて、ブロズマンさんは発見から死に至る2年間の間に、卵巣がん早期発見のための研究と注意喚起に役立てるため、自らの名前を冠した組織作りに挑んだ。ティナズ・ウイッシュのミッションは、「Know Early. Know Hope.」(早く知れば希望があるの意)。2008年の創立以来、ティナズ・ウイッシュは1700万ドルを集め、卵巣がん早期発見研究に特化して資金を提供してきた。ティナズ・ウイッシュによると、卵巣がんは婦人科系のがんでは最も死亡率が高く、80%の女性は進行してから発見されているという。

 来場者たちは、タバーン・オン・ザ・グリーンのダイニングスペースを横切って、奥の特設イベントスペースへ。最初はカクテルタイム。


 レストランだけあって、オードブルも豊富に提供された。


  ランウエーの前はティナズ・ウイッシュについての説明が行われ、プロの司会者にバトンタッチ。ランウェー後はプロの司会者が改めて寄付を呼びかけた。携帯電話でその場で寄付をできるようにし、その状況が画面に映し出される。200ドル、500ドルといった額は珍しくなく、1000ドルの寄付も見られた。「**ファミリーが、1万ドル新たに集まったら同額を寄付すると言っています」といったアナウンスもされ、寄付に拍車がかかった模様だった。


 ラッフルチケットと賞品も用意された。


 ランウェーに登場した18人はすべて、卵巣がんから生き残った人々、がん闘病中の人々、婦人科の医師などで、卵巣がんから生き残ったプロのモデルもいた。ただ1人登場した男性は、母親が卵巣がんのサバイバーで、男性が特定のがんのリスクを高める可能性をもつ遺伝子を受け継ぐことがあることを喚起するために歩いたという。ほとんどはプロのモデルではなかったが、どの女性も神々しい美しさがあった。今生きてここを歩けていることへの喜びと誇りを全身で表しているようで、胸がつまった。

 日本人として、唯一ランウエーを歩いたキャッツ洋子さんもその1人だ。キャッツさんは、ファッション工科大学でファッション経済学を教えている博士号をもつ准教授。乳がんにかかり、現在はステージ4でありながら教鞭をとり続け、同時に困難な治療を続けている。


 キャッツさんに感想を聴くと、次のコメントが返ってきた。

 「ショーに参加することで、がん宣告を受けた本人や家族だけの問題ではなく、社会からの応援を肌で感じることができて心強かったです。私自身、3週間に一度抗がん剤の点滴治療を受けていて、すでに最初の乳がん宣告から8年経ちました。治療だけを中心に時間が過ぎていくのであれば、社会から置いていかれていると感じ、孤独なことです。今回、がんサバイバー、がん患者とその家族、腫瘍内科の先生方たちの1人としてモデルとなりショーに参加し、ファンドレイジングでたくさんの研究資金が集まり、社会からのサポートがあると感じることができました。

 ファッションショーの舞台裏は、さながら『生きる』ことに対するお祝いのようでした。舞台裏には、悲しみの色は一切なく、喜びや興奮で包まれていました。ニューヨークで広告などを手掛ける、プロのヘアメイクの方たちに美しくしていただき、まるでテレビで見るショーの裏舞台と同じ様相。この日ばかりは、どんな治療をしているとかの話ではなく、どこのブランドの服を着て舞台を歩くのかとか、記念撮影をして楽しかったです。自分ががん宣告を受けて髪の毛がなくなり、女性のシンボルでもある胸を摘出した時に、患者さんたちこそファッションのパワーでポジティブになると実感しました。悲壮感いっぱいに『大丈夫?』と声を掛けられる代わりに、『今日のターバンスタイル素敵ね』って声をかけてもらえる。公共の場に出た時にまで、ずっと患者と認識されていなくてもいいのです。ファッションによって、患者さんとその周囲の方にポジティブな『生きる』力が届くのは、やっぱり素敵なことだなと思いました。」


 モデルたちが着た服は、ジェイソン・ウーやセオリーなどから提供された服もあったが、キャッツさんが着用したトップスは、乳がんの手術後に腕があがらなくなった時でも着脱しやすいように工夫したもの。キャッツさん自身が考案したもので、「ヒール・イン・ヒールズ」(ヒールをはいて癒されるの意)という会社を設立し、「リラクジップ」の商品名で販売している。「ファッションが生きる力になることは、Heal in Heels の活動を始めた時からのメッセージ。だから、今回もこういうショーに参加できてよかったです」とキャッツさんは語る。

 ショーの前後はショッピングタイムもあり、キャッツさんの「リラクジップ」もブースで手に取ってみることができた。


  ショーの後はデザートも出て、参加者たちは歓談を楽しんだ。


 ティナズ・ウイッシュは今までパネルディスカッションなどのイベントをしてきたが、ファッションショーをしたのは今回が初めてだった。誇らしげにランウエーを歩く女性たちを見ると、おしゃれをすることがもたらすパワーを改めて目の当たりにした気がする。卵巣がんの早期発見が難しいなら、日本でも注意喚起のためのイベントとして、こうしたファッションショーを含むイベントがあってもいいのではないかと思った。

(写真=ティナズ・ウイッシュ提供)

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89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



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