バード・グラジュエート・センターは、デコラティブアート、デザイン史、マテリアルカルチャーについて学ぶバードカレッジ大学院の研究機関だ。アメリカ自然史博物館に近い住宅街にひっそりと佇む、知る人ぞ知るという感じのギャラリーである。そこで今、レースの展覧会「スレッド・オブ・パワー」が開催されている。会期は来年1月1日まで。4フロアにわたる、まさに、糸のもつパワーを感じさせてくれる、非常に見ごたえのある展覧会。レースに少しでも興味がある人にはお勧めだ。
16世紀終わりから17世紀初めにつくられていたボビンレースの細かさと手作業を示す展示を見ると、よくこんな細かい作業、根気よくやっていたものだと感心する。レースのさまざまな歴史は非常に興味深い。ルイ15世(1715~1774年)の公娼だったポンパドゥール夫人のワードローブの半分は、非常に価値の高いレースだったという。キリスト教とレースは、切っても切れない関係にあった。レースはキリスト教の宗教的儀式でよく使われ、教会はレース業界にとって重要な顧客だった。同時に、キリスト教の宗教施設では、女性たちが厳しく管理された環境の中でレースをつくり、過酷な労働環境の元、長時間低賃金で働かされた時もあったという。機械でつくられるレースが急速に広がったのは、フランス革命後だった。レースが庶民でも手に入るようになり、機械化によって労働環境が改善されたのであれば、民主主義の観点からは機械化は良かったことなのだろう。同時に、今でも残っているハンドメイドレースの美しさには、やはり感嘆せざるを得ない。
レースを使った著名なデザイナーの服も展示されている。クリスチャン・ディオールの1949年春夏のコートは、裏地に美しいギピュールレースが使われている。裏地が見えるように、軽くはおって着たいコートだ。
シリコーンピグメントを使って立体感を出した新技術を取り入れた例として、コムデギャルソンの2017年の服も紹介されている。レースといえばクラシックな素材というイメージが強いが、まだまだ進化し続けているのだ。ファッションウイークに来る男性たちの装いにレースやレーシーな素材が見られることが増えているが、歴史をさかのぼれば男性の衣服にレースが使われていることが珍しくない時代があったのである。そんなふうに、改めてレースのもつさまざまな面と可能性、時代背景を知ることができた展覧会だった。
(写真:バード・グラジュエート・センター提供)
89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)