ゾゾが運営するファッションECサイト「ゾゾタウン」が18年末に発表した新サービス「ARIGATOメンバーシップ」を機に、ゾゾタウンへの出品を停止する動きが話題になっている。中止したブランド・小売店は「プロパー価格の恒常的な値下げが、ブランド価値を毀損(きそん)する」ことを理由にし、大手マスコミは「価格決定権」を論点にする。しかし、各ブランドのターゲットや販売戦略を基に、ECモールとの連携をしっかり考えることが重要だ。業界の既存発想から抜け出し、消費者へ新しい売り方・伝え方を斬新な発想で考えていく必要もある。
(疋田優)
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「価格が論点」は古い
ゾゾが打ち出した新有料会員サービス「ARIGATOメンバーシップ」は、商品購入金額の10%を同社負担で割引し、購入者はその割引額の一部または全額について同社が指定する団体への寄付、購入ショップやブランドへの金額還元など、使い方を選択できるもの。利用料は年3000円または月500円。アマゾンではプライム会員サービスがあるが、ゾゾは送料よりも商品価格を下げるサービスだ。
繊研新聞社の取材では、同サービスに意見が割れる。これを機にゾゾタウンから離脱したブランド小売りは「恒常的な値引きを問題視」するが、「ゾゾ負担のサービスである点で一定理解する」声が多い。ブランドによっては「ゾゾタウンでの販売は成長には重要」という。
前者を標榜(ひょうぼう)するのは経営層で、「店の集客や運営に響く」など全社への影響の懸念がある。もっとも15年からゾゾタウンが行っている販促クーポンの値引きを苦々しく思ってきたこともあり、「恒常的な値引き」「二重価格」で不満が噴き出した。
しかし値引き販売について今、胸を張って「値引きしない」と言い切れるブランドはどれだけあるのだろう。MD計画では投入後当たりのない商品はいち早く段階的に値引きし、現金化する動きがますます強くなっているし、商業施設などのセールに期待を寄せているところはまだ多い。確かに発売日からの値引きは問題にはなるが、ここにきて「価格を守る」価値観をふるい出すのは、新しい価値提供の流れを見据え切れていないところがあると思う。
ECやデジタルマーケティングでは今、「なぜこの価格で販売しているのかの商品価値を良好なコミュニケーションで伝える」ことがミッションだ。こうした価値訴求デジタルマーケティングこそがファッション業界全体に必要になっている。狭い観点を抜け出し、自社と顧客の良好な意思伝達をしっかり構築し、自力で提案価格を通すことに視点を移すべき。加えて、ブランドのターゲット・対象客拡大などの販売戦略にのっとって、ゾゾタウンが強みとするCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)マーケティングや物流機能を活用していくという判断をしっかりすべきだろう。
説明が足りない
ただ、ゾゾがサービス導入の説明を業界各社に丁寧に行わなかった模様。トウキョウベースの谷正人社長は「当社に告知されたのは導入の5日前。ちょっと強引な気はした」と話す。しかし、「創業経営者はその強引さも大事」と理解も示す。
ゾゾは「一部ブランドの判断でゾゾタウン上へのウェブ表示がオフ状態になっていること、またブランド側からの要望に基づいて、ARIGATOサービスの価格表示の方法の変更を検討しているのは事実」とした上で、いずれも各ブランドとどのような話をしているかの「詳細や実装時期の回答は控えたい」。加えて「買い物をすることで誰かを応援し、ARIGATOがもっと行き交う社会を実現するというサービス本来の意義について、ブランドの理解が得られるよう引き続き努力していく」とコメントした。
以前はファッションECの浸透に向けて、ゾゾタウンが目指す方向性やファッション産業の成長と未来を前澤友作社長が大いに語ってきたと思う。今はその説明が足りない感が強い。「消費者ファーストでなく、株主ファーストになっているのでは」との出店者の声もある。今月末には第3四半期決算説明も控える。十分な説明が聞きたい。