【ニューヨーク=杉本佳子通信員】21年春夏ニューヨーク・コレクションは、現実逃避が大きなテーマとなった。ニューヨークはコロナへの不安に加え、治安も悪化している。経済不安も高まり、1カ月半後に迫った大統領選挙に向けて緊張が続く。ハッピーな色柄をのせたファッションで少しでもポジティブな気分になってほしいという、デザイナーの気持ちを反映している。
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トム・フォードは、自分が感じていることを話す動画とルックブックの写真を配信した。動画の冒頭では、「21年春夏コレクションをデザインすることは悪夢だった」と心情を吐露した。この2週間、工場内での作業は認められず、駐車場にテントを張ってほぼ毎日全員検査をして、マスクとフェイスシールドをしてスタイリングを仕上げた。「そうした環境でクリエイティブでいることはとても難しかった」と語る。
その中で一番避けたのはシリアスな服だ。春になって客が店に来た時、笑顔になれるような服をつくった。自宅にこもっていた時期は、オフィスにもパーティーにも行けないのに新しい服など必要かと思った時もあったという。
自宅待機中に特にたくさん見たのは、アントニオ・ロペスのドキュメンタリー。70年代のモデル、パット・クリーブランドの笑顔とエネルギーにとりわけ刺激を受けた。何カ月もZoomですっぴんを見続けた後は、彼女の化粧にもインスパイアされたと語る。
少しカジュアルで、でもいい気分になれる、にっこりさせてくれる服を34体のウィメンズ、37体のメンズで表現した。いずれも鮮やかな色と大胆な柄をのせている。様々なアニマルプリント、大きなトロピカルフラワー、水彩タッチの抽象柄が並ぶ。ウィメンズはドレスもパンツルックもエレガントだが、どこかリラックスしている。量感たっぷりのカフタンは、水着の上にドラマチックにはおる。メンズもプリントのパンツにフード付きブルゾンを羽織ったり、プリントシャツのインナーに透けるTシャツを合わせたりして、イージーかつセクシーなルックだ。バスローブのように羽織るロングジャケットもある。メンズはパステルピンク、アクアブルー、クリームのバリエーションも入れて、優しい気分も漂わせた。
アリス・アンド・オリビアは、コレクションを着たダンサーたちが躍動感たっぷりに踊るプレゼンテーションを配信した。同時に、マンハッタンのチェルシーの路上で、ダンサーたちが踊るパフォーマンスもした。家に閉じこもりがちのニューヨーカーたちの気分を上げたい意図で、タイトルは「一緒にダンスしにおいでよ」。パンツや長いスカート、ショーツなど脚を上げやすい服が揃う。ボディーフィットのドレスは、左サイドをまるくカットし、そこに長いフリンジをつけた。柄はマルチカラーをのせたエキゾチックな柄とタイダイで、同素材のマスクも多く登場した。
セオリーは、「セオリー・オブ・ナウ」として、「リインベンション」と「リニューアル」の二つのチャプターをルックブックの写真配信で見せた。リゾートシーズンにあたるリインベンションは、室内でモデルが高く飛び跳ねているように見せた写真が並ぶ。家に閉じこもりがちでも、体を思いっきり動かして気分転換しようと言いたげだ。パンツルックを中心に動きやすい服が揃う。色はほぼモノトーン。リニューアルは、屋外で撮影した。ベアショルダーやワンショルダー、ロングスカートやプリーツ入りパンツで、ちょっとフェミニンな気分になれてなおかつ気楽に着られるワードローブを見せた。
アフリカ発のファッションは元々明るい色が多いが、マクソサ・アフリカのデザイナー、ラデュマ・ングソコロは、今までで最もカラフルでエキゾチックなコレクションにしたという。トンネルの向こうに灯があると信じ、「ハピネスは新しいラグジュアリー」との思いを込めて、録画済みのショーを配信した。ウィメンズ・メンズ共に、マルチカラーのボーダーストライプとジオメトリック柄をのせたセットアップが多い。