コロナ第2波によりパリ圏内が警戒最大化ゾーンに移行された翌日、緊張の高まる中「シャネル」と「ルイ・ヴィトン」のフィジカルショーが予定通り開催された。二つのメゾンはそれぞれパリジャンになじみのある場所を会場に、全く対照的なコレクションを発表。パリ・ファッションウィークの最終日に驚きを与えた。
(写真は大原広和)
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〈フィジカル〉
ルイ・ヴィトンの会場は、高級百貨店として来春、大リニューアルオープンするLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン傘下ラ・サマリテーヌ。パリジャンに親しまれてきた老舗百貨店だ。アーティスティックディレクターのニコラ・ジェスキエールもその一人。ジャンポール・ゴルチエでの見習い時代、同店の生地売り場によく走らされていたという。
そして今、LVのアーティスティックディレクターはジャンル(性)について考え、コロナ時代の若いジェネレーションに向けてエネルギッシュな春夏コレクションを提案する。ボディーラインを消してしまった、ウィメンズとメンズの境界のないジェンダーフリーなシルエットが特徴的。肩から背中や腕にエンジェルのような造形的な飾り、太いベルトでマークしたウエストが、ノーメークのモデルにフェミニンを漂わせる。
(パリ=松井孝予通信員)
〈デジタル〉
ルイ・ヴィトンから届いたデジタルの招待状には、バーチャルシートの番号が書かれている。メールで送られてきた案内をクリックすると、会場のラ・サマリテーヌのシートに座っているような目線でショーが見られるというもの。しかし、そのシートの目線はモデルに合わせて頭を振ってくれず、結果的に違う角度のデジタル配信を見る。
21年春夏はニコラ・ジェスキエールらしいガーリーなムードは控えめ。ボーイフレンドのアイテムを拝借してミックスしたような、ボリューム感のあるストリートスタイルが広がる。ミニスカートは見当たらず、ボクサーパンツのようなハーフパンツを含めたたくさんのパンツルックが揃う。ミニドレスは上からゆったりしたコートを重ねてセンシュアルな雰囲気を包み隠す。ストリートのムードを強調するのは、バイアスに流れるプリント柄。トップやドレスにVOTE、SKATEといった韻を踏んだ文字が斜めにのせられる。色もまるでお菓子のパッケージのような配色。アメリカ大統領選を前に、そのタイポグラフィーのセンスがさえる。箔(はく)とともにバイアスに流したようなプリントは、そのテクニックがデジタルでは分かりかねるいら立ちの技術。ワークスタイルのような太いベルトと木靴のようなシューズが、ミックススタイルを補完する。そのストリートのムードは、80~90年代のミックススタイルのポップな雰囲気を思い出させる。
(小笠原拓郎)