22~23年秋冬ミラノ・コレクションは、過去のワードローブや伝統を背景にしたスタンダードアイテムをモダンに変えていくデザインが相次いだ。実用的な定番品や男性らしいアイテムに異なるデザインを取り入れて、スタンダードを進化させたり、女性らしさを強調したりといったコレクションが目立つ。
フェンディは、過去のアーカイブをコンテンポラリーにしていく手法を取り入れた。ランウェーに登場したのは、アートにオマージュを捧げた86年のコレクションの幾何学的モチーフとテーラーリングに、00年秋冬にフォーカスした透ける素材の軽やかさを融合したライン。アーティスティック・ディレクターのキム・ジョーンズは、シルヴィア・フェンディが度々着ているのを見かけていたプリントのブラウスを、シルヴィアの娘デルフィナ・デレトレズが母親のワードローブから見つけ出して着ている姿を目にして、はっとさせられたことをきっかけに今回のコレクションが生まれた。若い現代的な女性デルフィナが、昔のフェンディの服を着ることで、服に新たな奥深さと魅力が加わるようなイメージだ。
マスキュリンなイメージのガンクラブチェック柄は、シャツとビュスティエのセットアップというマスキュリンとフェミニン双方を内包するアイテムに。王道のテーラードジャケットの袖口やスカートの裾には繊細なシフォンがのぞく。ウエストから腰までをカバーするアシンメトリーな曲線を描く千鳥格子柄のベルトは服の一部となって表情を加えるとともに、スマートフォンを入れるポケットやミニチュアのバッグ型チャームを付けるための金具のある機能的なアイテムとなる。未来派の絵画を思わせる勢いある柄は、シルクシフォンにプリントされ、躍動的なフェミニニティーを際立たせる。
「フェンディのアーカイブを探索するのに最良の方法は、服を実際に所有している人のワードローブを見ることだ」とジョーンズ。服そのものよりもっと奥深い、一つひとつのアイテムの様々なストーリーを表現しようとしているようだ。
ヌメロ・ヴェントゥーノは、「自発的な更新」がテーマだ。「今この時期に最も重要なのは、ファッションの自発性を回復することであり、そのためには服を作りながら、服が内包する意味を構築していくことだ」とクリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・デラクア。今回はメンズとレディスの合同ショー。近年、男性と女性の姿形に関する概念が変化していく中、男女共用のワードローブを提案した。ただし一つのアイテムの中に男女双方のエレメントを入れたところがデラクア流。ドロップ気味なワイドショルダーのメルトン地のミリタリーコートはユニセックスアイテム。メンズライクな素材とテーラーリングでマスキュリンなアイテムかと思わせながら、女性用ボディーに着せて、ウェストの後ろ部分にダーツを何本も入れて絞ったフェミニンなシルエットも盛り込んでいる。また同じ生地でコルセット、ビュスティエを作るなど、メンズ服の仕立ての技術を生かした女性のアイテムもある。男性用のプリーツスカートやレースのブラウスなど、女性用の素材やアイテムを再解釈したものも。テーラーリングを深める中で再発見したのは、バイアス裁断。スパンコールをつないだバイアスカットのドレス、ニットなどに用い、アシンメトリーな造形を生み出している。
マックスマーラは、「モダニストの魔法」がテーマ。ダダイズムの中心人物として20世紀前半に建築家、ダンサー、テキスタイルデザイナー、画家、彫刻家として活躍したスイス人、ゾフィー・トイバー=アルプにオマージュを捧げた。既成概念を打ち破り、境界を越えたアートワークを展開した彼女の精神を反映したパワフルなコレクション。
タイトなニットトップとボリュームある釣り鐘形マキシスカートのコーディネートのように、ミニとマキシ、スキニーとオーバーサイズなどのコントラストが多用されている。ニットの袖やコートの襟もとにファスナーを付けて、その開閉でシルエットの変化を楽しむ。おとぎ話「キングスタッグ」上演のために彼女がデザインしたマリオネットの構造も服に取り入れられた。ニーハイソックスのようなニットのブーツには、身体構造を考慮したキルティング、モヘヤのセーターには袖にマリオネットのような関節構造が投影されている。
もこもことしてぬくもりのある素材「テディベア・ファブリック」は、定番のコートからアイテムを拡大して、ショートパンツ、チュニック、マキシスカートなども登場。一般にダダイズムで思い浮かべる「虚無、反抗、破壊」という要素は皆無。「喜びの抽象化」とされるトイバー=アルプのアートワークに通じる遊び心あるコレクションだ。
(ミラノ=高橋恵通信員)
ミラノ・コレクションの初日、突如「メゾン・ヴァレンティノ」のインスタライブが始まった。同ブランドがミラノで発表する予定はなく、サプライズイベントでもなさそうだ。その時間にショーを行っていたのはマルコ・ランバルディ。ヴァレンティノとイタリアファッション協会が協業し、若手デザイナーをサポートするプロジェクトの第1弾として、ヴァレンティノのSNS上で若手のコレクションを公開する取り組みだ。「核にあるアイデンティティーの価値に共鳴する感性を持つ人」を選出基準に、ヴァレンティノのピエールパオロ・ピッチョーリが選んだ。
ランウェーに登場したのは、ピンクやパープル、ミントグリーンを組み合わせたキッチュでパンクなスタイル。ほんのり透けるふわふわのモヘヤで、柔らかなボディーコンシャスを作っていく。フレアパンツにはぴたぴたのニットドレスをレイヤード。様々な体形のモデルが登場するなか、豊満なモデルのふくよかな丸みがニットの柔らかさを増幅させる。
ミラノ・コレクションはここ数年、若手のバックアップに力を入れてきた。通常は多くの人に見てもらう機会が少ない若手のショーだが、有力ブランドがSNS上で配信することでぐっと知名度が上がりそうだ。
(青木規子)