《CFP削減を協業して進める理由は?》オールバーズの竹鼻圭一さん×アディダスジャパンのトーマス・サイラーさん

2022/01/01 06:27 更新


 20年からパートナーシップを結び、カーボンフットプリント(CFP、生産から使用・廃棄の過程で排出される温室効果ガスの総量)を低減したランニングシューズを共同開発し、21年末に発売した独アディダスと米オールバーズ。気候変動という大きな問題に対し、一企業で取り組めることには限界があるが、他企業、しかも同業他社と組むのに抵抗感を持つところは多い。サステイナビリティー(持続可能性)を他社と進める上で、求められる視点とは何か。日本法人の幹部同士が語り合った。

(聞き手・構成=杉江潤平)

小さな点を大きな輪にできます(竹鼻さん)

――競合でもある2社がなぜパートナーシップを結んだのか。

サイラー サステイナビリティーやカーボンニュートラルを実現するためには、1社単独で行動を起こすのではスピードが遅いと思います。「一人では全てのことを知り得ない」と謙虚になり、他社とパートナーシップを組むことで世の中を変えていくことが重要です。

竹鼻 気候変動の問題ではっきりしているのは、1国や1企業では解決できないということ。皆で知識を寄せ集め、対処していかないと未来はありません。我々は天然素材に関する知見を持ちますが、まだ小さな会社です。他社と協業することで、小さな点を大きな輪に広げることができます。

――CFPが史上最小という靴「フューチャークラフトフットプリント」開発の狙いを。

竹鼻 アパレル・靴産業は、石油に次いで2番目に地球を汚している産業と言われており、我々の責任は重大です。消費者により良い商品を届けながら、気候に対するインパクトを減らしていくことは重要課題であり、このシューズを開発した意義もそこにあります。

サイラー 将来、「カーボン」という言葉が生産者にとってスコアカードになるでしょう。そこでこのプロジェクトを通じ、パフォーマンスシューズにも関わらず、CFPが低いものをどう開発できるのか学びたいと思ったのです。そして実際に、生産過程・輸送・エンドユーザーへの提供方法などバリューチェーン全体にわたって、多くの気付きを得ました。

竹鼻 バリューチェーンの各プロセスを両社で検証した結果、例えばミッドソールはアディダスのランニングシューズで使われているものをベースに、CFPの少ないオールバーズの天然素材を使うことにしました。また、靴の重さや製品を梱包(こんぽう)する箱の形などがCFPに影響を及ぼすことも気付くことができました。互いに手の内を見せ合い、共有することにこそ意味があったのです。今回の取り組みは、両社のブランド名を並べただけの単なる協業ではありません。バリューチェーン全てで互いの知見を共有し合う、過去にない協業だと思います。

竹鼻氏(左)とサイラー氏

共に努力しないと解決できません(サイラーさん)

――独自のノウハウを明かすことは、相手を利することにもつながるのでは。

サイラー 大きな問題は、共に努力しない限り解決できません。そのため我々は、社内のインテリジェンスを一定の方々に公開するリスクよりも、それで得られるベネフィットのほうがはるかに大きいと考えました。

 アディダスは15年に、海洋プラスティックからできた一足のランニングシューズを国連で発表しましたが、その後そのシューズは海洋プラスティック削減のアイコン的なシューズになりました。今回オールバーズと開発したこのシューズも、温室効果ガス削減に向けた協業を成功し得たアイコンシューズになると期待しています。

竹鼻 サトウキビ由来の当社のミッドソール素材「スウィートフォーム」は、誰もが使えるようオープンソース化しており、既にいくつかのグローバル企業が使用しています。多くの企業がそれを使うことで、環境インパクトを減らせるだけでなく、量産によって素材単価を従来に比べ下げられるメリットがあるのです。「共有すること」自体が、一つのパラダイムシフトだと思っています。

 たけはな・けいいち 1963年生まれ。大阪外国語大学卒業。ナイキで香港、米本社、欧州地域本社勤務。帰国後、アークテリクスのアジア地区コマーシャルディレクターに就任。2019年にオールバーズの日本法人を立ち上げた。20年からは韓国法人の代表も兼務。

――両社の環境施策の主な内容と目標を改めて。

竹鼻 「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」をミッションステートメントに掲げ、3点に注力しています。一つ目は石油由来の素材をできるだけ使わず、羊毛やユーカリなど再生可能な天然素材を活用すること。二つ目は、サプライチェーン上のエネルギー消費量の削減と、再生可能エネルギーへの転換を進めること。オフィス、店、工場などでは再生可能エネルギーを使い、製品輸送では25年までにその95%を(環境負荷の少ない)海上輸送とすることを目標にしています。最近は、出店先のビル側が率先して再生可能エネルギーを導入しており、機運の高まりも感じますね。

 そして三つ目は、再生型農業の推進です。近年、土壌に二酸化炭素を吸収しやすくする再生型農業が注目されており、オールバーズではその研究・開発をサポートしています。再生型農業の広がりで、羊を飼育する過程で生じるメタンなどの温室効果ガスを相殺して余りあるほどにしたいと思っており、25年までに使用するウール全てを再生型農業を行っている牧羊農家経由で調達する計画です。

サイラー 25年までの成長戦略「オウン・ザ・ゲーム」では、サステイナビリティーをキー戦略に位置付け、「三つのループ」実現に挑戦しています。その一つ目は「リサイクルループ」で、24年までにリサイクルされたポリエステルのみ使うことを目標に掲げています。二つ目は、単一素材でできた製品が使われなくなった段階で、再び同じ素材で新たな製品を作り、ゴミを出さないようにする「サーキュラーループ」。三つ目は、製品を自然素材のみで作り、寿命がくれば土に戻る「リジェネレーティブループ」です。そして25年までに全製品の90%を持続可能な素材や技術を活用したものとし、全事業拠点でカーボンニュートラルの達成を目指しています。

 各目標に対する進捗(しんちょく)には満足しています。21年10月時点でリサイクルポリエステルの使用率は70%となり、販売製品の60%は持続可能な素材や技術を備えたものとなりました。

Thomas Sailer 1970年ドイツ生まれ。98年アディダスに入社し、ドイツ本社でフットボールやオリジナルス担当を歴任。2014年にマーケティング事業本部長として来日、現在はアディダスジャパン副社長マーケティング事業本部長兼キーシティトーキョーゼネラルマネージャー。

――オールバーズはCFPを測定し、店頭では1品ずつ公表もしている。なぜか。

竹鼻 製品のCFPを正しく把握できないと良い選択ができませんから、消費者にはそれを知る権利があると思っています。そのため、我々にはまずCFPを公開する義務があります。またCFPの公開によって、「次に作る製品が、さらにより良い数値でなければならない」という宿題を自らに課すことにつながっており、(お客様に対する)アカウンタビリティーにもなっているのです。

 今後、社会全体として数十年にわたって環境への負荷を抑えていくには、消費者に我慢の多い生活をしてもらうのではなく、豊かな日常を過ごしながら、地球環境にポジティブな行為を前向きにしてもらえることが重要です。CFPの数値が低い我々の商品をお客様が購入すれば、スポーツなどをこれまで以上に楽しめるだけでなく、「環境負荷低減に個人として貢献している」という実感を持てるでしょう。そのためにも、数値の測定と公表は必要なのです。

オールバーズの店舗では全製品にCFPを表示する。シューズの平均CFPは一般的なスニーカーより約40%低い(丸の内店)

――ともに上場企業だが、「環境重視」と「株主利益の追求」は両立するか。

竹鼻 CFPの少ない製品を買う人が増えれば、地球に対する環境インパクトは総体として減っていきます。つまり、商業的成功とサステイナビリティーの追求は決して相反せず、両立する関係なのです。

サイラー 近年顕著に投資家の考え方が変わってきています。当社に対しても、「アディダスがいかにサステイナブルな会社か?」ということについて、詳細な質問を投げかけてくるようになりました。投資家はこれまでとは全く異なる基準で投資先を選定するようになっているのです。

竹鼻 5年、10年前なら環境対応はビジネスの足かせと捉えられていました。しかし今は、環境問題に本気で取り組まない企業は投資価値が無いと投資家に判断されるようになっていますよね。

上の写真で2人が履くのが「フューチャークラフトフットプリント」。1足あたりのCFPが2.9キログラムCO2eと両社にとって最も低い値を実現した。21年5月に試作品を発表、12月に1万足限定で販売した。22年春夏には4色に広げ本格販売する

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