【PR】【アパレルDXの今】攻めと守りを使い分けながらDXを推進 ECは次のステージへ

2024/03/12 00:00 更新


 24年2月期に売上高2700億円、営業利益180億円の過去最高を見込むアダストリア(東京)。好調要因の1つが、ECの成長だ。自社ECの「.st(ドットエスティ)※以下ドットエスティ」は、会員数が1710万人を突破。同社はいかにしてECを含めたデジタル戦略を進めているのか。アパレル業界のDXを支援するシタテル(熊本)と業界のキーパーソンとの対談シリーズ第3回は、アダストリア執行役員マーケティング本部長の田中順一氏を招き、シタテル代表取締役CEOの河野秀和氏と「DX推進において大事なこと」などについて語ってもらった。

デジタルでの最短距離は求めない

田中 アパレル業界に限ったことではありませんが、日本は人口減少に加えて労働生産性の低下という問題も抱えています。その中で、ECも含めた店舗というハコとモノに関して、いかにして次の新しい仕組みを作っていくか。デジタルを使って現状の課題と向き合うことがDXなのかなと考えています。労働の問題を解決するためには効率化も重要ですが、デジタル技術を使うのは「お客様」に対してより良いサービスを提供するためという考えが根本にあります。サービス向上のための「攻め」と業務効率化という「守り」を使い分けながら、「何をやりたいのか」に立ち返りつつ進めていく必要があると思っています。

河野 アダストリアさんの中でDXを推進するのは、田中さんが率いるマーケティング本部が中心になっているのですか?もしくはDXの推進を行うセクションがありますか?

田中 DX戦略部という組織が別にあります。会社として「グッドコミュニティ共創カンパニー」を目指す中で、自社ECの「ドットエスティ」の会員やSNSを活用した顧客接点づくりが僕の領域です。スタートから10年が経ちますがECの枠組みを広げたいと考えています。ECをただモノを買うだけの場所にしていたら、もったいない。ユーザーは商品を買わなくてもスタッフのスタイリングを参考にするなど、スタッフに対するコンテンツのニーズってすごくあるんです。

 これからの「EC」は電子商取引を意味する「Electronic Commerce(エレクトロニック コマース)」ではなく「Entertainment Community(エンターテイメント コミュニティ)」を目指すべきだと考えています。効率ばかりを追求するのではなく、非効率性も重視しながら楽しいことをしてきたい。Play fashion! をミッションに掲げるアダストリアにとって、ファッションのワクワク感は大切な要素の一つ。ECの思想を一段階上げて、売り上げだけではない価値をつくっていきたいと思っています。

河野 業績を上げることだけを最短で考えると、ECで売り上げをつくろうと考えがちですが、そうではないんですね。私は定点観測として時々お店を回るようにしているのですが、アダストリアさんは実店舗に行っても高揚感が出るよう上手く演出されていると感じます。

田中 実店舗と人はアダストリアが培ってきた最強のコンテンツで、それらにECを掛け算して新たな価値を生み出すのが、僕のチャレンジだと思っています。「アダストリアらしさ」を大事にしているので、デジタルでの最短距離は求めていないんです。

 何かをする時に、経営の視点や店舗の視点、さまざま視点で俯瞰して、どの視点で伝えると現場が一番動きやすいかを考えるようにしているのですが、とくに新しいデジタル技術を使う場合は、「何のためにやるのか」と同時に「短期的なのか長期的なのか、どういう時間軸でやろうとしているのか」を説明することはすごく重要です。そして、最終的に大事なのは、お客様の反応です。その結果が出ないと新しい施策は続かないので、定量的に測って、ダメだったらひたすら改善するしかないと思っています。その実行力と実行できる人材が鍵ですね。

河野 田中さんの頭の中にあるダッシュボードに経営指標とお客様の動きがあるとしたら、お客様の方を見ていることが多いですか。

田中 お客様の方だけを見ているということはなくて、よく言われることですが「ロマンとソロバン」の両方を大切にしています。数字を出せれば、また新たな投資ができますから。

アダストリア 執行役員マーケティング本部長 田中順一氏

テーマは「コネクト」。デジタルをうまく掛け算させていく

田中 これからのテーマは「コネクト」です。今までつくってきたものを、いかにつなげていくか。「ドットエスティ」とOMO型店舗の「ドットエスティストア」によって一体型のプラットフォームを実現させていきます。その際きちんとつなげたいので、経営や業務効率化、ユーザーエンゲージメントなどの指標と照らし合わせながら「今あるものを使うのか」「自分たちでつくるのか」はきちんと見極めたいと思っています。

河野 チームの先頭に立つ田中さんがサービスの本質を見極めて、必要なDXをきちんと分かったうえで進めているところが素晴らしいですね。しかし、伸びている企業がデジタル化だけを推進しているかというと、必ずしもそうではない(現時点では)。アダストリアさんは、常にオリジナリティーを意識している点もすごいです。

田中 アダストリアにはいろんなブランドがあって、それぞれの事業部の思いがあって、すごくいいアセットがあるので、ECを含め、デジタル化が進めやすいです。DXだからといってすべて効率化してしまったらつまらないと思っていて、非効率性の中にある面白さこそが「アダストリアらしさ」につながっていると考えています。アダストリアにすでにある素晴らしいアセットに、デジタルやECをうまく掛け算させていくのが僕の役割です。

河野 アダストリアさんは、サステナブル経営も高い意識で進めていらっしゃいますね。

田中 会社としてはアドアーリンクという子会社をつくり、廃棄される在庫やサンプル商材などの再販事業やアップサイクル事業を通して、アパレルサーキュラーエコノミーの実現を目指しています。現場の取り組みとしては、適時、適量での生産、適価での販売に努めて、なるべく在庫を残さないような営業努力を強化しています。さらに、サービスでできることとして、フリマサービス「ドットシィ」を23年10月に始めました。

 きっかけは、「服がクローゼットに入りきらなくて困っている」という販売スタッフの声です。スタッフ個人のSNSフォロワー数は全体で約500万人います。「人気スタッフの私物がほしい」というユーザーもいて、ドットシィとSNSを連携させ、スタッフとお客様の間で服が循環するような仕組みをつくりました。当初は弊社の製品のみに限定していましたが、24年1月から他社製品の出品もOKにしています。

河野 それは革新的な取り組みですね。

シタテル 代表取締役CEO 河野秀和氏

DXの先駆けで受注生産にチャレンジ

河野 アダストリアさんには約5年前、「HARE(ハレ)」で「sitateru CLOUD(シタテルクラウド)」をご活用いただきました。ドットエスティを使ってオンライン上で完全受注生産をするという企画で、当時としてはDXの先駆けだったと思います。

田中 生産の無駄を省くために受注生産という取り組みができないか模索していた中で、たどり着いたのがシタテルさんでした。こちらで企画したアイテムを、受注生産という形で国内で作って販売するというものでした。

河野 これまでにない仕組みを使った初めての取り組みだったと思いますが、実際現場の反応はいかがでしたか。

田中 当時まだ世の中になかった仕組みで、PRやブランディングにもつながると考えてチャレンジしました。「何のためにやるのか」がはっきりしていたし、「実験的にやってみよう」という気持ちがあったので、現場も柔軟に受け入れてくれました。

連携の理想のカタチ

河野 ハレと弊社の取り組みもそうですが、完全受注生産の仕組みを作るうえで、システムのアーキテクトも柔軟性が必要になってくると考えています。企画から資材調達、生産、販売までバリューチェーン上にあるさまざまな情報を、いかにシームレスにつなげていくかが鍵になります。

田中 すべてデータでつながっているのが理想ですね。販売前の商品をECに掲載し受注後すぐに生産できたら非常にスムーズです。

河野 一方で全システムをシームレスに統合する考えは魅力的ですが、部分的な改修が全体の構成に影響する「問題」があります。この解決策として、意識的にモジュール単位で設計することにより、各コンポーネントを独立させ、個別の更新や改修を可能にする。結果として、「餅は餅屋」を実践しつつ、効率的なシステム連携と更新の柔軟性を確保できます。

田中 ピンポイントで細かく改修できるのは重要ですね。例えばレコメンド機能ひとつとっても、いろんな種類があります。トップページに出てくるレコメンドもあれば、商品ページの下の方に出てくるレコメンドもある。そのうちの1つだけを変えたいのに、連動していてすべて変わってしまうと困りますから。

河野 シタテルでは現在、APIエコノミー形成に向けて多くの企業と連携を強化しています。シタテルのサービスを単体で完結させるのではなく、現代の人々の複雑な行動や情緒に合わせて、柔軟にサービスの領域を拡大し、プラットフォームのさらなる提供価値の向上を目指し、ユーザーである小売・ブランド企業のお客様が、その企業、そしてブランドのファンとなるようご支援していきたいと考えています。


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お問い合わせ先

シタテル株式会社
marketing@sitateru.com
https://sitateru.com/

企画・制作=繊研新聞社業務局



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